第361話 終わらせてあげよう

「っと!」


 いうわけで……やって来ました!

 第13階層に繋がる階段前の広場っ!!


「ふっふっふ〜ん!

 どう? ビックリした??」


 本来ならばこのダンジョン・魔天楼では、今みたいに長距離の転移は使えない。

 使えるのはせいぜい戦闘に用いる事ができる、目視可能な範囲程度。


 だがしかしっ!

 たった今、秘密の隠し通路の奥にあった影の騎士シャドウの本部からここまで転移したように……そんなルールは、この私には通用しないっ!!


「驚いた……まさかこのダンジョンで転移魔法を使えるなんて」


「ふふん!」


 いいね! いいね!

 実はノワールさん達の所からセドリック達のいた場所に転移する時も転移魔法を使ってたんだけど……フィルはノワールさん達が転移で送ってくれたと思ってたみたいね。


 珍しくフィルが目を丸くして、普通にビックリしてる!!

 このダンジョンで階層間だけじゃなく、長距離の転移ができないのはここが悪魔族デーモンが統べるダンジョンだから。


 全種族の中で最も魔法に精通した種族である、悪魔族が長距離の転移を制限しているから長距離の転移は使えない。

 まぁ悪魔族よりも高度な魔法の技量を持っていれば、その限りじゃないんだけど。


 このダンジョンの頂点に君臨しているのはノワールさん達、大悪魔たる七柱の悪魔公デーモンロードである七魔公!

 ご本人達曰く、大賢者と謳われるマリア先生ですら不可能との事。


 でも……その七魔公であるノワールさん、レヴィアさん、ベルさんに可愛がられている私は特別!

 許可をもらってるから問題なく、このダンジョン内でも長距離はもちろん、階層間の転移すら可能なのである!!


「実はフィルが神域を頑張って展開しようとしてる時に、ノワールさん達から転移できるようにしてもらってたの」


 我ながらすごい人脈だわ〜!

 一部の人はそんなの自分の力じゃないとか、ズルいとか思うだろうし、それを否定するつもりもないけど……私は人脈というのも、自身の力の1つだと思ってるから問題ない!!


「なるほどね。

 あの方々にそこまで気に入られるなんて、流石というかなんというか……っと、そろそろ来るよ」


「そうみたいね」


 このダンジョンで転移魔法が使える事を自慢するのは後にして……今は第13階層へと続く階段を登ってくる存在を。

 この強大な魔素エネルギーの元をなんとかしないと。


「キャッ……イキャァァァァッ!!!」


「「っ!!」」


 私達の敵意に反応したみたいだけど……なにこの叫び声っ!

 魔力感知でなんとなくわかってたけど、やっぱり近づいて来てるやつは人間じゃない。

 私の魔力感知も妨害されててハッキリとはわからないけど、いったいどんな化け物が……


「っ……!」


「これは……」


 私達の視線の先。

 第13階層へと続く階段の先から姿を表したのは……


「天使?」


 背中にある純白の羽毛の、まるで天使のような一対の翼。

 そして……そんな翼とは似つかわしくない、継ぎ接ぎされたような不自然に肥大化した身体。

 血の涙を流しているようにも見える幼い顔。


「なに、あれ?」


 威嚇するかのように周囲に無差別に魔力を放出して、甲高い奇声をあげ続ける謎の存在。


「チッ! まさかとは思ってたけど……」


「フィル?」


「ソフィー、あの継ぎ接ぎされたような身体に、あの子供のような顔」


 継ぎ接ぎ、子供……


「ま、まさか……」


「恐らくアレは……影の騎士の実験によって、子供達を材料に作られた一種のキメラだよ」


「っ!! そんなっ……」


 まさか影の騎士が、こんな非道な実験をしてたなんて!

 どうにかして助け……


「残念だけど、僕達じゃあもうあの子達を救う事はできない。

 ソフィーもわかってるでしょ?」


「っ……! それは、でも……」


「僕達にできるのは、一刻でも早く彼らを解放する事。

 せめて安らかに眠れるようにしてあげる事だけ」


「そんなのっ!」


 そんなのわかってるけど!

 もはや原型がわからない程に切り刻まれて、いったい何人が継ぎ接ぎされたのかもわからない。


 そもそも子供達の意識なんてとっくにないだろうし。

 そんな状況にある子供達を助けるのは……私達でもできっこない。


「けどっ!」


「ソフィー……」


「っ……」


 強くなったのに。

 一国を相手に相手どれるほどに、人類最強の一角と呼ばれるほどに強くなったのに……私は目の前の子供達すら救えないっ!!


「影の騎士……絶対に、絶対にっ! 叩き潰してやるっ!!」


「ソフィー、終わらせてあげよう」


「……うん」


 地面が、空気が、ダンジョンが揺れる。

 押さえ込んでいる魔力を……魔素エネルギーを解き放って、奇声をあげる擬似天使に向けて手を翳して魔力を一気に練り上げる。


「ごめんね」


 せめて、一瞬で。

 苦しめる事なく、眠らせてあげるから。


「集え」


 キラキラと、白い光の粒子が。

 私の膨大な魔力の粒子が、手の前へと収束し……


「全てを焼き尽くせ……」



 パチンッ!



 軽く指を打ち鳴らした解き放つ。


「白炎・息吹ノヴァ


 全てを焼き尽くす、白き炎の熱戦が。

 3年前から変わらず私が誇る最強のオリジナル魔法による、光の奔流が解き放たれ……


「あり、がとう……」


 影の騎士の非道な実験によって生み出された、擬似天使が消滅する瞬間。

 そんな声が聞こえた気がした。

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