第359話 覚醒イベント!

「ハァ、ハァ……」



 セドリックの荒い呼吸が。



「ゔぅ……」



 オズワルドの呻き声が。



「く、そ……」



 悔しげなガイルの呟きが。



「この、化け物め……」



 サイラスの負け惜しみが。



「そんな……」



 そして……エマの絶望したような声が。

 地面に膝をついたり、倒れ伏したりしている5人の声が、静まり返った戦場にこだまする。


「う〜ん、まぁ頑張ったほうかな?」


 圧倒的格上である影の騎士シャドウのリーダーとの戦いが始まって約30分。

 5人でうまく連携する事で手数を増やし、なんとか互角と言ってもいい戦いを繰り広げていたわけだけど……


「やっぱり今のセドリック達じゃあ、あの人に勝つのは厳しいか〜」


 セドリックやガイルの剣はかわし、受け止めて弾かれ、受け流され。

 サイラスやオズワルドが放った魔法は、両断されて霧散するか、同程度の魔法で無力化される。


 エマの支援魔法で強化されても結果は同じ、傷を回復させてもすぐに重傷を負わされる。

 結果として体力と魔力が限界に達して今に至る……ゲームと現実は違うって事ね。


「まぁ、当然と言えば当然の結果だと思うよ?

 彼らの間には、それ程までに大きな力の差があった。

 あの男がセドリック達を殺す気だったら、もっと早く終わってただろうしね」


「確かに」


 影の騎士のリーダーは本気だったけど、全力ではなかった。

 一見互角で一進一退の攻防が繰り広げられていたのも、影の騎士のリーダーにセドリック達を殺す気がなかったから。

 彼がその気になれば、勝負はすぐに着いていた。


「ここから……というか、最初から何か奇跡が起こらない限り、セドリック達が勝つのは不可能だよ」


「奇跡、ね」


「それでどうする?

 そろそろ僕達が介入しないと、ヤバいと思うんだけど」


「う〜ん」


 さて、どうするべきか。

 本当なら乙女ゲームの内容と変わってしまうから、できる限り介入はしたくなかったんだけど……


「仕方ない」


 フィルのいう通り何か奇跡でも起こらない限り、ここからセドリック達が逆転するのは不可能だろうし。

 ここはビシッとカッコよく、セドリック達を助けてあげようじゃないの!!


「よしっ! フィル、行くよ……」



『ぴろん!』



「っ!!」


 こ、この音は……!!


「天の声さん!?」


「まさか、ここで……?」



『5つのざ……み……ス……の加護の発芽を確認』



「えっ?」


 何これ? なんか途中でノイズが……



『個体名セドリック・エル・イストワール。

 個体名オズワルド・アイビー。

 個体名ガイル・アレス。

 個体名サイラス・エドウィン。

 個体名エマ・カミヤ・イストワール』



「おぉ〜」


 エマのフルネームにイストワールが入ってる!

 いやまぁ、イストワール王家がエマの後継をするって事で、イストワールの名前を名乗る事を許してるから間違いではないんだけども。



『以上5名がユニークスキルを獲得しました!』



 とにかく! ただ一つ言えるのは……


「奇跡、怒っちゃったかも」


「うん、そうだね」


 まさかこのタイミングで、5人全員が! それもユニークスキルを獲得するなんて!!

 何これ!? 窮地に陥ってパワーアップするとか、まさしく覚醒イベントじゃんっ!!

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