第346話 あのバカ王子は!!

「ふざけるな! 俺を誰だと思っているっ!?」


 苛立った怒声が。


「ふんっ、我々が誰なのか、理解していないようですね」


 上から目線で見下し、探すような声が。


「セドくんはイストワール王国の王子様なんですよ!」


 むっと怒って、責めるような声が。

 セドリック、オズワルド、エマの声が鳴り響く。


「あぁ! もうっ!!」


 絶対に王城の城門を守護している衛兵さんと、揉め事になるだろうなぁ〜とは思ってたけど……やっぱりこうなったか!

 あんなのが次期国王に宰相そして聖女様だなんて! あんなのが私の婚約者とか本当に恥ずかしい!!


 乙女ゲームとは様子が違う2人は! 何故かまともなガイルとサイラスの2人はどこに行っちゃったのよ!?

 喚き散らしているセドリック達の声を聞いて、王城で働いている人達も、王都の人達も集まってきてるし……


「あの、我が国の者が本当に申し訳ありません……」


 うぅ、居た堪れない。

 私もあのおバカさん達と同じイストワール王国の公爵令嬢だし、特に仮とはいえセドリックの婚約者なんて立場だから余計に!


「お、おやめください!

 ソフィア様が頭を下げられる事はありませんっ!!」


「ですが……」


 この王城に勤めている使用人の方々は優しいからこう言ってくれるけど……イストワール王国のおバカさん達が迷惑をかけているのは事実だし。


「ソフィア様に頭を下げさせてしまったなどと、殿下に知られれば私共がお叱りを受けてしまいます。

 ですからどうか、頭を上げてください」


「エミリーさん……」


 フィルについてる補佐官の一人で、側近の一人でもあるエミリーさん。

 超大国の伯爵令嬢なのに、初めて会った時からずっと優しい!


「わかりました。

 でももしそんな事で怒られるなら私に言ってください! フィルにビシッと言ってやりますから!!」


 エミリーさんを始め! こんなにも優しくて優秀な人達を、そんな理不尽な理由で叱責するなら……私が懲らしめてやるわ!!


「ふふっ、その時はよろしくお願いします」


「エミリーさんっ!!」


 あぁ〜! もう、なんて可愛いのっ!!

 エミリーさんは私より一つ年上だけど、そんな事は関係ないっ!

 もう抱きしめちゃう!!


「まぁ、ソフィア様ったら、仕方ありませんね」


 いきなり抱きついた私に嫌な顔もせず、優しく頭を撫でてくれるエミリーさん。

 やっぱりフィルなんかには勿体ない人だわ! 前に断られてるけど、なんとか引き抜けないかな?


「俺はイストワール王国の王太子! セドリック・エル・イストワールだぞ!?

 不敬罪に問われたくなければ、今すぐそこを退けっ!」


 むっ、セドリックめ……まだ喚いてるのか。

 イストワール王国の王太子って言っても、所詮は歴史以外は特に着目する点のないしがない中堅国家だしね。

 そもそもの話がアポも取らずに、他国の王城に押しかけるなんて非常識にも程がある。


 それでも乙女ゲームでは王城に押し入れるんだからすごいというか、なんとかいうか。

 確か……憤るセドリック達を宥めながらも、必死に魔王を倒すためにこの国の協力が必要だと衛兵達を説得する聖女に国王陛下が心打たれてって感じだったけど……


「あっ、フィルが来たみたいですね」


 残念だけど! フィルがその場に出向いたからには、乙女ゲームの通りにはいかない。

 まだ何かセドリックが喚いてるけど、すぐに解決するはず。


「はぁ……」


 私は既にイストワール王国に、国という権力と1人で渡り合えるだけの力を持ってるし。

 Sランク冒険者のみんなや、マリア先生に皇帝陛下を始めとする伝説の英雄とか、ぶっちゃけイストワール王国ところか、世界を左右できちゃうほどの人達との伝もある。


 よって乙女ゲーム通りに好きでもない、むしろ嫌いなセドリックとの婚約を向こうから破棄してくれるのは、私にとっても好都合だし。

 そのためなら影ながら協力するのも吝かではないんだけど……


「本当に何を考えてるんだろう?」


 せめて常識くらいは、当然の礼節くらいはわきまえてほしいものだわ。


「こう言っては失礼ですが、何も考えていらっしゃらないのでは?」


「確かに……」


 さすがはエミリーさん、鋭い!

 多分セドリックはエマにいいところを見ようとしただけで、何も考えてなかったんだろうな……


「はぁ……」


 本当に、本当にっ! あのバカ王子は!!

 未だに何か喚いて……


「あっ」


 ついにはフィルに転移で、強制送還されちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る