第320話 その理由が……

「ッ! なんて事を……」


 光を失った魔法陣の中心で……不安そうに顔を歪め、キョロキョロと忙しなく周囲を回して困惑する少女に、国王エルヴァン陛下が愕然と言葉を溢す。


「あぁ! そんな……」


 エルヴァンおじさ……げふん! げふんっ! エルヴァン陛下に続いて、妨害者を突破した王妃フローラ様が目を見開いて口元を押さえ……


「おぉっ! 成功したかっ!!」


「素晴らしい! 良くやりましたね!!」


 歓喜に満ちた、そんな声が鳴り響く。

 満面の笑みを浮かべ、数名の騎士を引き連れながら部屋に入ってきた人物達。


「父上、母上……」


 エルヴァン陛下が絞り出すように呻いた通り!

 この壮年の2人こそがエルヴァン陛下のご両親、エルビル前国王とドリヴィラ前王妃。

 そして! 今回の一件の黒幕!!


 宰相補佐であるヤムザ・ボルヴィットに内密に事実を出し、王命の偽造を行い、聖女の召喚……異世界召喚という暴挙をしでかした者達。


「何故このような事を……」


 しかも、その理由が……


「何故だと?

 そんなもの! お前が不甲斐ないからに決まっているだろうっ!!」


「不甲斐ない?」


 まぁエルヴァン陛下が怪訝に思うの当然だよね。

 だって先王エルビルの治世と比べて、今の方が国も豊かだし、国力も上がってるもん。


 先王と現王、どっちの方が有能で良い治世かといわれれば、ほとんど全員が現王と答えるだろうし。

 エルヴァン陛下からしてみれば、エルビル様から不甲斐ないなんて言われる謂れはない。


「そうです。

 貴方達が不甲斐ないばかりに、我々が動かなければならなかったのです」


「いくら前王妃にして陛下のご両親といえど、無礼が過ぎます!!」


「黙りなさい!

 フローラ、貴女がしっかりとエルヴァンを支えていれば、このような事にはなっていないのですよ!?」


「我々が不甲斐ないお前達の尻拭いをしてやったのだ、感謝せよ」


「巫山戯るなっ!!」


 エルヴァン陛下の怒声が鳴り響く。

 いつもは国王陛下って感じが全然なくて、フローラ様によく怒られたりしてるイメージだけど……さすがはお父様と親友にして戦友。


 エマ……まぁまだ本当にエマって名前かは不明だけど、召喚された少女はビクッと肩を揺らし。

 騎士達が思わず身構えてしまうほどの一喝!

 そんな一喝を受けて……


「ここまで言ってもまだわからぬかっ!!」


 前王エルビルが目尻を吊り上げて怒鳴り返す。


「貴様には王家としての、王族としての自覚と誇りが足りておらん!」


「何を……」


「何故我々がこのような事をしたと思う!?」

 全ては王家の栄誉と誇りを守るためっ!」


「栄誉? 誇り?」


「そうだ! 貴様らが仲良くしているルスキューレ公爵家。

 あの家は前々から目障りだったが、数年前の魔王襲来際には冒険者と協力して魔王を討ち。

 国内外の有力者ともパイプを持ち、その財力と武力は国内随一」


 それは……まぁ、うん。

 確かにその通りだわ。


「それに対して王家はどうだ?

 魔王襲来の際にはルスキューレ家に協力して王都を守るので手一杯。

 財力、武力共に今やルスキューレ家に劣るときた!」


「だからなんだというのです!

 我ら王家がその信頼を裏切らない限り、ルスキューレ家が王家を! この国を裏切る事など絶対にないっ!!」


「そんな事はどうでもよいわっ!

 公爵家とはいえ、一家臣の身でありながら王家よりも力を持ち、重要視されている事が! 上に見られている事が問題なのだ!!」


「貴方達は知っていますか?

 今や他国からは王子であるセドリックよりも、公子であるアルト・ルスキューレやエレン・ルスキューレ、公女であるソフィアの方が重視されているのですよ?」


 まぁ……だってアルトお兄様は最年少の賢者で、エレンお兄様はSランク冒険者の一人だし、私はその妹。

 中堅国家の王子であるセドリックよりも重視されるのは当然なんじゃないかな?


「栄光ある我ら王族が!

 世界で屈指の歴史を誇る、誇り高きイストワール王家が、たかが公爵家如きよりも下に見られている事などあってはなりません!!」


「だからこそ、我らが不甲斐ない貴様らに代わって動いてやったのだ!

 聖女がいれば! 我らも魔王を討てば、王家が軽く見られる事はないっ!!」

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