第319話 異世界召喚
国土、経済規模、軍事力、国としては中堅国家といえるものではあるが周辺諸国と……四大国と呼ばれる国々と比較しても、大陸で屈指の歴史を誇るイストワール王国。
魔王の一角を撃退し、剣帝や最年少賢者に続く白銀の天使の登場。
ここ数年で国際的な立ち位置を大きく押し上げているイストワール王国の王都ノリアナに聳える白亜の王城。
「準備はできているな?」
王城の地下深く……限られた一部のものしか存在を知らない秘密の部屋に、厳かな声が鳴り響く。
「はっ!」
その声、貴族然とした青年の言葉に、白いローブに身を包んだ者。
魔法師団に所属する魔法使いが覇気のある声で応えるも、その表情は浮かばれない。
「どうかしたのか?」
「いえ……ただ、本当によろしいのかと。
一度陛下にお伺いを立てた方がよろしいのでは……」
「その必要はない。
これは最高位機密であり、この計画を知る者はごく僅か。
それに……」
青年が懐から取り出したのは一枚の書状。
「ここに王印の入った、陛下からの勅令状がある。
つまり! これは王命によって極秘裏に進められている計画。
万が一にも露見する危険は犯せない」
「しかし……」
「くどいぞ! ならば貴様は、もし仮にこの情報が外部に漏れた場合、その責任を取れるのかっ!?
王命に背いての情報漏洩だ。
極秘計画ゆえ公に罰せられる事はないだろうが、事故や病死に見せかけて一族郎党、処刑されるのは確実だろう」
「っ……!!」
青年の言葉を受けて、魔法使いが息を呑んで押し黙る。
「わかったら無駄口を叩いてないで、魔法を成功させる事に全力を注げ」
「……かしこまりました。
宰相補佐ヤムザ様」
とまぁ、宰相補佐と魔法師団の魔法使いとの間で、怪しいやり取りがされてるけど……
普通にバレてるし、なんならこうして見学しちゃってるんだけどね〜!
「むふっ!」
ふっふっふ〜! 机の上に浮かび上がっているのは、王城の一角を映した立体映像。
Sランク冒険者に名前を連ねるこの私に、隠し事なんてできないのであるっ!!
「けど……アレで宰相補佐ね」
ヤムザ・ボルヴィット。
確か現在最年少の宰相補佐官で、ボルヴィット子爵家の次男で年齢は21歳。
将来有望で優秀な文官って、ちょっと有名だったけど……
「はぁ……宰相補佐なんて立場の人が、報連相を怠るなんて」
まぁあの人は結構な野心の塊みたいだし、欲に目が眩んじゃったんだろうけど。
「嘆かわしいというか、なんというか……」
あんな人が宰相補佐なんて地位にいるとか、この国の未来が心配だわ。
まさかこの計画が成功すれば宰相地位を約束するって報酬に目が眩んで、王命の偽造までするとか!
もはや叛逆罪と言っても過言じゃない行為を、まさか! まさか宰相補佐がするなんて!!
まぁこの計画の裏にいる人を思えば……この計画に正当性を感じちゃうのも仕方ないのかもしれないけど。
「さて、どうなる事やら……」
結構杜撰な計画だし、国王王妃両陛下には既に報告済みだからヤムザ宰相補佐が心配せずとも既に情報は漏洩している。
普通に考えて、成功する可能性はかなり低いと思うけど。
「ルミエ様はどうなると思いますか?」
『そうね……まぁ、あのおバカさん達がどうなるかは知らないけど、召喚自体は成功するでしょうね』
「同感です」
だって、誰の入れ知恵かは知らないけど……地面に描かれた魔法陣は無駄が一切ない、完璧と言っていい完成度だもん。
「あの魔法陣なら、手順さえ守れば誰でも異世界召喚を行う事ができそうですからね」
『まぁその点は流石というべきね』
「えっ? それって……」
『っと、始まったみたいよ』
「っ!」
ついに……やっぱり陛下達は間に合わなかったか。
部屋の前までは来てるみたいだけど、そこであの人達に邪魔されちゃってるのか。
「どいてくださいっ!!」
陛下が邪魔をする人達を押し退けて扉を押し開く。
「世界を隔てる門よ! 今こそ開けっ!!」
陛下が扉が開くのと同時に、眩い光が魔法陣から放たれ……
「えっ? な、何これ……?」
光が収まった時。
魔法陣の中心に黒髪黒目の少女が、その可憐な顔を困惑に染めて佇んでいた。
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