第321話 お出迎え

「はぁ……」


 憂鬱な気分を吐露するように重く、深刻にため息を吐く。


「お嬢様、はしたないですよ」


「だってぇ〜」


 そんな事を言われても、憂鬱なんだから仕方がない。

 確かに公爵令嬢として、未来の王妃の立場にいる者として、褒められた行動じゃないかもしれないけど……


 ここにいるのは私とファナ、ルーとミネルバ、そして私の膝の上で丸くなっているルミエ様のみ!

 だから、ため息を吐いても! 愚痴をこぼしても! 何も問題ないのである!!


 そもそも! セドリックとの婚約は国王陛下なのにエルヴァンおじさんが、それはもうしつこくどうしてもって懇願してくるから仕方なく結んだだけ。

 セドリックとの婚約も不本意なものなのに……


「はぁ……」


 これからの事を思うと、3日前からため息が止まらない。


「オルガマギア魔法学園とか、特別任務を理由に欠席できないかな?」


「ご主人様……」


 うっ、ルーちゃん! そんな呆れたような顔をしないで!!


「お嬢様……ここまで来たのですから、いい加減諦めてください」


「だ、だって……」


 不本意とはいえ。

 仮とはいえ、セドリックの婚約者で、準王族って立場なのはわかってるけど。


「嫌なものは嫌なんだもん!」


 王家に……前国王エルビルと前王妃ドリヴィラによって、異世界召喚が敢行されてから3日。

 王宮からの緊急召集と言う名の……お願いだから来てください! ってお願いを受けて、王都の街並みを馬車で進んでいるわけだけど。


「どうして私が聖女エマをどうするのかを決定するための会議に出席しなくちゃならないのっ!?」


「そんなに嘆かられるのでしたら、ご主人様が介入して召喚を阻止なさればよかったのではないでしょうか?

 ご主人様ならば、あの異世界召喚の阻止など容易い事だったかと」


「そ、それは……そうだけど」


 確かに普通に考えれば私はSランク冒険者で、人類最強の一角。

 ルーの言う通り、その気になれば物理的に介入して異世界召喚なんていう暴挙を阻止する事は簡単にできた……はずなんだけど。


「仮に私が阻止しようと動いても、失敗する気がしたし」


『まぁ……あの召喚は運命みたいなもの。

 阻止できた可能性は否定しないけど、ソフィーの感は間違ってないと思うわよ?』


 ルミエ様もこう言ってるし!!

 それにっ!


「可能な限り、関わりたくなかったから……」


 ただでさえ不本意な仮婚約のせいで、王族の問題に巻き込れる可能性が高い。

 だから! 王家のゴタゴタに巻き込まれるのが嫌だったから、前王達の企みをエルヴァンおじさんに報告するだけで干渉しなかったのにっ!


「それなら、国王の手紙を無視すればよろしかったのでは?」


「うっ……」


 ル、ルーちゃんめ! さっきから正論を……!!

 でも! セドリックの事は嫌いだけど、エルヴァンおじさんやフローラ様の事は嫌いじゃないし。


 国王陛下からあんな懇願するような、涙目になってる姿が連想できちゃうような手紙をもらったら、折れるのも仕方ないじゃんっ!!


「お姉様……大丈夫ですよ!

 私もお側に付いていますから!!」


「ミネルバ……!」


 もう! 私の妹はなんていい子なのっ!?

 可愛い妹に、姉として不甲斐ない姿は見せられない! もう手遅れかもしれないけど……


「わかった。

 嫌だけど、本当に嫌だけど! 最善を尽くすわ」


 そうだ、何を不安になる事があるっ!

 私はソフィア・ルスキューレ! Sランク冒険者の一人にして、今や1人で国を相手どれるほどの世界的重要人物なのだ。


 王家……というか私の事を毛嫌いしてる前王達は、聖女を王家に取り込みたいだろうし。

 この際だ、聖女エマが召喚された事を理由に、念願だったセドリックとの仮婚約を解消してやるわっ!!


「到着したようですね」


 ファナがそう言うと同時に、馬車がゆっくりと減速して行き……


「っ……!」


 あっ、やっぱりダメかも。

 このまま馬車の扉を開かずに今すぐお家に帰って、ふかふかぬくぬくなベッドでくるまって寝ちゃいたい。


「到着いたしました」


 私の願い虚しく、王宮からの私を迎えに来た馬車の御者が恭しく扉を開き……


「よく来てくれた」


 ずらっと綺麗に整列した使用人達。

 そして……


「待っていたぞ、ソフィア嬢」


 国王陛下自ら……それはもう安堵したような、嬉しそうな笑みを浮かべたエルヴァンおじさんに出迎えられた。

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