第317話 連行されるっ!!

 差し出されたフィルの腕に軽く手を添えた瞬間、一瞬にして景色が切り替わり……


「「「ソフィーっ!!」」」


「うぐっ!?」


 視界が真っ暗に染まる。

 うん、まぁもういつもの事だから驚きもしないけど……


「はぁ……貴方達、ソフィーちゃんが苦しがってるでしょう?」


 お母様っ!! 流石はお母様、わかってるっ!

 そう! 公爵邸に帰って来れば、こうなるのは毎回の事だし、もう驚きはしないけど……


 それでも男性3人からギュウギュウと抱きしめられたら、流石に苦しい。

 それはもう恥ずかしさもあるし、暑苦しいし、物理的にもちょっと苦しい。


 しかも……仮にもお父様は元Aランク冒険者であり、実力でいえばSランクに匹敵するといわれ。

 アルトお兄様は第十五魔塔の主人でる最年少の賢者で、現役のAランク冒険者。


 そしてエレンお兄様は剣帝と謳われる現役のSランク冒険者の1人。

 しかもアルトお兄様とは違って、接近戦を得意としている肉体派だしっ!!


「そうですよ、お義父様、アルトとエレン様も。

 ソフィーちゃんはうら若き15歳の少女なのですよ?」


「今日はお客様達もいますし」


 フィアナお姉様! ディアお姉様っ!


「そろそろ私達にソフィーちゃんを譲ってください!」


 んん? ディアお姉様??

 と、とにかく! お母様達の援護がある今のうちに、この状況から脱しなければっ!


「ぷはっ……そうですよ。

 お父様もお兄様も、そろそろ離してください」


「「「っ!?」」」


 そ、そんなショックを受けたような、傷ついたような顔をしても無駄ですから!

 まぁいつもなら、お父様達の抱擁も受け入れるけど……今日だけはそうもいかない!!


 だって今日は目の前にフィルがいるし。

 譲って云々はともかく! ディアお姉様の言う通り、お客もたくさん来ているのだ。

 それはもう、すごい面子が揃っている。


 そのために、お父様は王国の重鎮で多忙だからいつもは王都の公爵邸にいることが多いけど……

 今日は王都にある公爵邸じゃなくて、ルスキューレ公爵領にある本邸で私の誕生日パーティーをすることにしたわけだし。


 今日招待しているのは、私が冒険者として活動している中で仲良くなった人や、オルガマギア魔法学園で知り合った人達。

 彼らならこの場にいなくても、この場所を見る事もできるはず……現にいくつもの視線を感じるし。


「「「……」」」


 けど、こうもしょんぼりされたらちょっと罪悪感を感じる。


「はぁ……もう、仕方ないですね。

 後でなら抱きしめてもいいですよ?」


 正確には今日の誕生日パーティーが終わったらだけど。


「まったく……ソフィーちゃんも甘いんだから」


「うっ」


 お母様に呆れられちゃったけど、確かにお父様やお兄様達には色々と甘い自覚がある。

 けどけど! こんなにもあからさまな好意を向けて、溺愛してくる家族を無碍になんてできないから仕方ないと思う!!


「と、とりあえず! みんなを待たせてるので、早く行きましょう!!」


「ソフィーちゃん、どこへ行くの?」


「へっ?」


 ど、どこにってお母様、それは当然パーティー会場に……


「今日はソフィーちゃんのお誕生日パーティーなのよ?

 主役たるソフィーちゃんが、そんな格好で良いわけないでしょう?」


「えっと……」


 ニッコリと微笑むお母様の笑顔に、なんか嫌な予感を感じるんですけど……


「フィアナ、ディア」


「「はい」」


「ちょっ!?」


 フィアナお姉様もディアお姉様もいったい何をっ!

 というかいつの間に私の背後に回って!?


「既にファナとルー、ミネルバの3人を筆頭に我がルスキューレ公爵家の精鋭達が準備を整えているわ」


「で、でもお客様をお待たせするのは……」


「問題ないわ。

 そもそも今日のパーティーの開始時間は夜よ? 尤もそこまで余裕はないけど」


 いやまぁ確かにパーティーの開始時間は夜だけども!


「で、でも」


 まずい! このままでは、お母様やお姉様、ファナ達に着せ替え人形にされる事は明白っ!!

 ど、どうにかしないとっ!


「ふふふ」


 どうにか……


「どんなドレスと髪型がいいかしら?」


「ソフィーちゃんに一番似合うドレスはどれでしょう?」


「楽しみですね!」


 れ、連行されてしまうっ!

 こうなったらお父様達に助けをっ……って! なにハンカチを振ってるんですかっ!!

 どうすればっ! どうすればぁっ!!


「さぁ行くわよ」


「うぅ……」


 サイドをお姉様達にガッチリガードされて、連行されるっ!!

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