第309話 えっ?

「心当たりといわれても……」


 竜種の知り合いといえば、迷宮・魔法神の休息所の湖にいる水竜と、七大迷宮・大海で出会って今はギルド本部に預けてるキューちゃんくらいだし。


「う〜ん……あっ」


 いや、海竜といえばあのときの……!!


「その反応は、心当たりがあるみたいだな」


「えっと、その……はい」


 意識して忘れようとしてたから咄嗟に思い出せなかったけど、確かに私は海竜との接点が1つだけある。


「あっ! そういえば、ソフィーちゃんが聖女って呼ばれるようになった一件!!

 あれって確かアクムスで海竜の怒りを祈りで鎮めたからって話だったような」


 オラシオさんっ!?


「な、なんでそのことを……」


 私は孤高の悪役令嬢なのに!

 クールでなんでも卒なくこなしちゃう、カッコいいSランク冒険者なのにっ!


 アクムス王国の王都フェニルの人達から、よりにもよって私と対立する予定である聖女様って呼ばれてしまった。

 むず痒くてむず痒くて、私の中で黒歴史認定されてる一件!!


 だがこそ忘れようとしてたわけだけど……本来Sランク冒険者が他人を、それこそ同じSランク冒険者だとしても気にすることなんて滅多にないのに!

 なのになんで……!!


「ふふふ〜、ソフィーちゃん私を甘く見たらダメだよ?

 こう見えて私は可愛いものには目がないんだから〜! ソフィーちゃんの情報は当然、把握しているに決まってるよ!!」


 金と赤のオッドアイに桃色髪の美少女がドヤってる!

 可愛いのはオラシオさんですっ!!


「と、とにかく! それでなんであの時の海竜さんが私を?」


「さぁ?」


 さぁって、イェーガーさん……


「い、いや! 言っておくが、これは俺が悪いわけじゃないぞ!?」


「ソフィーくんは今この船にはいないと伝えると、会えるまで待つと言ってこの大渦を作ってしまったんだ」


「そういうわけ。

 だから俺らもなんであの海竜が、ソフィーちゃんに会いたがっているのかは知らないってわけ」


「なるほど……」


 それはどうしようもない。

 自然発生した大渦じゃないなら、避けて通ろうとしても無駄だろうし。

 緊急事態として集められたのも納得できる。


「勘違いしてしまっていたみたいです。

 イェーガーさん、すみません」


「いや、それは別にいいんだけど……」


「問題はこの状況をどうするのか、ですね」


「あぁ」


 イェーガーさんも頷いてるけど、確かにオネットさんの言う通り問題なのはこの状況をどうするのか。


「とりあえず……祈ってみます」


「祈るって?」


「イェーガーさん! 黙ってて!!」


「えぇ……」


「あぁ! あの有名なソフィーちゃんの聖女姿が拝めるなんてっ!!」


「「「「「「「……」」」」」」」


 イェーガーさんを含め、何人かがオラシオさんにドン引きしてるけど……まぁ細かいことは気にしない!


「まずは……」


 船内から甲板に、全員を連れて転移してっと!


「おぉ〜」


 カメラでもすごかったけど、実際に見てみるとよりすごい!

 しかも進路を塞いでるだけで、この船自体には影響がないように調整されてるのか、目の前に超巨大な大渦があるのに揺れとかがほとんどない!!


「では!」


 胸の前で両手を組んで、目を瞑って……


「偉大なる海の覇者、私にどのような御用でしょうか?」


 いや海竜さんがいってる人物が私って確定してわけじゃないけど、とにかく! この大渦を止めてください!!


「っ! これは……!!」


 ん? 後ろからイェーガーさんの声と、どよめきが。

 いったいどうしたんだろ……


「あっ」


 あれだけ唸ってた大渦が嘘のように消滅して……


「キュー!!!」


 どこか心地いい、優しい声が鳴り響き……


『お久しぶりです、偉大なる御方に寵愛されし少女よ』


 船の前に美しい海竜さんが!!


「え、えっと……こんにちは。

 あの、貴女はあの時の海竜さん、ですよね?」


『その節はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした……』


 おぉ〜、海竜さんがしゅんとしちゃった……か、可愛い!! じゃなくて!


「私になにか御用があると聞いたのですが……」


『えぇ、貴女と、貴女の仲間の方々を私の治める領域にご招待させていただくて参りました』


「なるほど」


 海竜さんの領域に私達を招待……


「えっ?」

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