第289話 無知って怖い

「おぉ〜!」


 すごいっ! 本物のSランク冒険者を生で見ちゃった!!

 いやまぁ、私自身もSランク冒険者だし、フィルやエレンお兄様もそうだけども!


 他にも魔法神の休息所で出会ったガルスさんや、フラン先輩にオネットさんもSランク冒険者で、何気に結構なSランク冒険者と会ったことがあるけども!!


 街中でばったり偶然Sランク冒険者の1人と遭遇する!

 このシュチュエーションの感動は、今までのものとはまた一味違うっ!!

 なんていうか、レア感がすごいっ!


「なんだお前はっ!?

 これは僕達の問題だ、誰かは知らないが部外者が邪魔をするなっ!!」


「「「「「「「「「ッ!!」」」」」」」」」


 わ〜、すごい。

 Sランク冒険者の登場でざわついていた周囲の人達が、一斉に息を呑んで一瞬にして静まり返った。


 というか、なんだお前はっ!? って……ここは冒険者ギルド本部を中心とした冒険による冒険者のための冒険者の街!

 冒険者ギルド本部を擁する都市アバン!!


 そんな場所にいるにも関わらず、10数名しかいないのに世界的な重要人物に位置付けられているSランク冒険者のことを知らないとは……


「ふ〜む」


 無知って怖いわ〜。

 一国の国王ですら、Sランク冒険者にこんな態度はできないっていうのに。


「おっと、これは失礼。

 まさかこの都市で私のことを知らない人がいるとは思わず、自己紹介をするのを失念していました」


「ふんっ! まるで自分が有名人であるかのような言い草だな。

 僕のような貴族でもない、冒険者風情が自惚れるなよ?」


 うん、ここまで来ると、ある意味すごいわ。

 知らないとはいえ、周囲の反応から目の前の人物が只者じゃないってわかるはずなのに。


 ただの伯爵令息がSランク冒険者相手にここまでの啖呵を切るとは!

 あっぱれですらあるっ!!


 まぁ、何はともあれ! いくらあの生意気お子様が〝千剣〟のミルバレッドのことを知らなくても、お付きの執事はさすがにSランク冒険者達の特徴は知って……


「まったくもってベンゼル様の仰る通りです。

 冒険者の分際で貴族であるベンゼル様に楯突くなど、許されることではありません!

 貴様! 今すぐ土下座をして、ご寛大なベンゼル様に許しを乞いなさい!!」


「「「「「「「「「……」」」」」」」」」


 もう言葉も出ないとは、まさにこのことだよ。

 まさか主従揃ってSランク冒険者のことを知らないなんて……さすがの私も衝撃だわ。


「初めまして、可愛らしいお嬢さん達。

 私の名前はミルバレッド、Sランク冒険者の1人です」


 おぉ〜、優越感に浸った顔で踏ん反り返っていたベンゼルくんと、めっちゃ見下すような視線を向けてきてた執事を綺麗に無視してめっちゃキザに優雅な所作で一礼されちゃった。


「「は?」」


 ミルバレッドさんの後ろで、無知主従2人が揃って間抜けな顔をしちゃってるけど……まぁいいや。


「初めまして、ソフィアと申します」


「ミネルバです」


「お2人の、特にソフィアさんの噂は兄君から予々」


「ふふっ、そうですか。

 いつも兄がお世話になっております」


 耳元で周囲に聞こえないように小声でいわれたけど……まっ! そんなことだろうとは思ってました。

 なにせ、この〝千剣〟ミルバレッドさんと〝剣帝〟エレンお兄様はいわずとしれたライバル関係!!


 エレンお兄様から幾度となく、ミルバレッドさんについては聞かされてたし。

 あのエレンお兄さまがミルバレッドさんに、私のことを話していてもまったく不思議はないもん。


 不思議はないというか、むしろ嬉々として長々と私のことをミルバレッドさんに語っている姿が容易に想像できる。

 うん、本当にミルバレッドさんにはエレンお兄様がお世話になってるわ。


「お、おいっ! 僕を無視するんじゃないっ!!

 そもそも! お前が本当にSランク冒険者だという証拠がどこにあるっ!!

 ふざけた嘘を言っているんじゃないぞっ!!」


「そ、そうです! Sランク冒険者の名を騙り、ベンゼル様を欺こうとするなんて許されざる愚行ですぞっ!!」


 まぁ……うん、信じたくない気持ちはわかるけども、それはよろしくないんじゃ……


「外野が少し煩いですね」



 ドッ────!!



「「ッ──!?」」



 ドサ……


「はっ? 何が……」


「おいおい! いきなり倒れたぞ!」


「何が起こったっ!?」


 いきなり倒れた? 違う。


「へぇ、これは……」


 さすがはエレンお兄様とタメを張るライバルである、Sランク冒険者〝千剣〟ミルバレッド。


「今のはミルバレッドさんの覇気ですか?」


「おや、さすがですね。

 いかにも今のは私の覇気で、煩わしい外野には少し黙ってもらったのです」

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