第256話 これは……まさか!

「ふぁ〜」


 眠い。


「ソフィア先生、あくびなんてして珍しいですね」


「すみません。

 でも眠たくて……」


 公爵令嬢として。

 孤高の悪役令嬢として。

 人前であくびをするなんて、許されないんだけど……眠たいんだから仕方がない。


「もう〜、先生ったら仕方ないですね〜。

 ほら! 私の膝を貸してあげましょうか?」


「アメリアさん……」


 主席であるリアットに続く座席で、金色のボブヘアに緑の瞳をした美少女で現在14歳。

 性格も明るく快活で、男女問わずみんなに好かれるタイプ。


 昨日の授業の時に、生徒が失踪してるって噂を教えてくれたのもアメリアさんで、基本的にいい子なんだけど……たまにこうして先生である私を揶揄ってくる。


「あはは〜、すみません。

 冗談で……」


「ありがとうございます。

 では、お言葉に甘えて、少し失礼しますね」


「へっ?」


 昨日は遅くまで起きてたから、実質2時間ほどしか寝れてない。

 つまり! 私は今、すご〜く眠たいのである!!


 そんな状況で膝枕を! それもこんな美少女に提案されたら、果たして誰が断れるだろう?

 断言しよう! 誰も断ることなどできはしないとっ!!


「えっ、ちょっ! ソフィア先生っ!?」


「むふっ」


 焦ってる、焦ってる。

 確かに私はまだ12歳で、アメリアさんよりも年下だけど……先生に揶揄ったらダメなのだよ。


 昨日の授業内容も昨日と同じく、実践形式で魔法を使って魔力量を増やすこと。

 別に私がずっと見てる必要はないし、補佐であるフィルもいるんだからちょっとくらい寝ても問題ない!!


 それに! これは私が眠たいからってだけじゃない。

 先生のことを揶揄ってきたアメリアさんに対する罰という、歴とした正当な理由があるっ!!


「おやすみなさい……」


「おやすみなさい、じゃないよ」


「むっ、フィル」


 私の睡眠を邪魔するの?


「はぁ……まったく、授業中に生徒の膝枕で寝ようとする先生なんて聞いたことないよ?」


 そんかこといわれたって、眠たいんだから仕方ないじゃん。

 それに! これはアメリアさんへの罰でもあるのだ! 非難される謂れはないのである!!


「ふっ、羨ましいでしょ?」


 どうよ! アメリアさんみたいな美少女の膝枕だもん、男の子なら羨ましくないわけがない。

 堂々とアメリアさんの膝枕を堪能できる! これが同じ女の子であり、先生でもある私の特権なのだよ!!


「……朝からちょっとボーってしてたけど、寝不足で完全におかしなテンションになってるね」


「なにをいって……」



 パチンっ!



 フィルが指を打ち鳴らし……


「あれ?」


 なんかポカポカする。

 というか、なにこれ?


「あのぉ〜、ソフィア先生?」


「アメリアさん?」


 どうして目の前に、覗き込むようにしてるアメリアさんの顔が……


「ッ〜!! す、すみません!

 私としたことが、はしたない真似を……!!」


 あぁ! なんてことをっ! 生徒達の前でなんで失態をっ!!

 やばい、恥ずかしい。


「えっと……フィル様、これはいったい……」


「身体に蓄積されていた疲労と、眠気をとり省いてあげたんだよ。

 その結果、変なテンションから解放されて正気に戻って……ああなってるってわけ」


「なるほど……」


 やめて! そんなにしっかりと説明しないで!!


「ふふっ! ソフィア先生、真っ赤になって可愛い〜!」


「うぅ……!」


 アメリアさんも、フィルも、みんなも! そんな生暖かそうな目で私を見ないで!

 あぁっ! 穴があったら入りた──


「っ!!」


 これは……まさか!


「やばいっ!」


 その瞬間、訓練場の地面に。

 私達の足元に光り輝く巨大な魔法陣が浮かび上がり……


「みんなすぐにこの場から離れ……」


 視界が黒く染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る