第206話 指名依頼

「さて、今回ソフィーに来てもらった理由だが……」


「んん〜! このケーキ、美味しいですね〜!!

 さすがはレヴィアさんが、作ったケーキ!」


「ふふっ、ありがとうございます。

 ソフィーちゃんに、そう言ってもらえると嬉しいです」


「確かに……レヴィア様、また腕を上げましたね」


「まったく……悪魔界を統治する大悪魔たる悪魔公が一柱ヒトリの趣味が、お菓子作りってどうなのかしら?」


 いいんです!

 大悪魔だろうとなんだろうと! あま〜いスイーツという名の魔力には、誰も抗えないのだっ!!


「しかしこれは……驚きました。

 まさかレヴィア様の腕がこれ程とは……」


 そうでしょう! そうでしょう!!

 さすがは冒険者ギルドのナンバー2たるクリスティアさん! 見る目がありますね!!


「人の話を聞けっ!!」


「っ〜!」


 び、びっくりした〜!

 もう! ガルドさんったら、いきなり大声を出さないでくださいっ!!

 ビクッ! ってなっちゃったじゃないですか!!


「むぅ」


「いやいやいや、ちょっと待て!

 ソフィー、お前は俺に非難するような目を向けてるが……冒険者ギルド統括グランドマスターの執務室で!

 それも悪魔公なんて大悪魔が作ったケーキを和気藹々と食ってるんだぞ!!

 非常識なのはお前らの方だからな!?」


「っ!?」


 た、確かにっ!!


「いや、なに今気づいたみたいな顔をしてるんだよ。

 こっちが驚きだわ……」


 い、いわれてみれば……冒険者ギルドのトップたるギルド統括ガルドさんの執務室で、大悪魔であるレヴィアさんが作ったケーキを食べるなんて状況は異常すぎる!!


「す、すみません……」


 私としたことが……まさか、そんな簡単な事実を失念していたなんてっ!!

 うぅ……さっき慣れって怖いって、改めて再認識したばかりなのに!!


 いやでも! 説得力はないかもしれないけど……最初は私もこうじゃなかったんです!!

 あれは、私とフィルとルミエ様がSランク冒険者昇格試験を受け直して、無事にSランク冒険者に昇格したあと──


 お家に帰って、ゆっくり寛いでいたときだった。

 こんにちはってニコニコ笑顔を浮かべながら、いきなりレヴィアさんが転移して現れたときは心臓が飛び出るかと思ったもん!


 でも、それからちょくちょくと手作りスイーツを持って、我が家を訪ねてくるようになって……

 お父様やお兄様達、お母様とまでいつの間にか打ち解けて……今ではすっかりと、レヴィアさんが手作りスイーツをご馳走してくるのは日常の一コマと化していた!!


 き、気まずい! ガルドさんのジトォってした視線が超気まずいっ!

 な、なんとかしてこの微妙な空気感を誤魔化して、話を逸らさなければ!!


「こほん! そ、それで、私はどうして呼び出されたのでしょうか?」


「あからさまだが……まぁいい、これじゃあいつまで経っても話が一向に進まねぇしな。

 それでだ、今回ソフィーに来てもらった理由だが……実はお前に頼みたい依頼があってな」


「依頼、ですか?」


 それも私に?


「あぁ、先方からの指名依頼だ」


「っ! ほほう、指名依頼ですか」


 指名依頼。

 それは依頼者が依頼を受ける冒険者を指定してギルドに出す依頼であり、指名されるということはその冒険者の信頼度が高いことを意味する。

 つまりっ!


「むふっ! ついに、私にも指名依頼が来ちゃいましたか!!」


 その指名依頼が私にくるってことは、Sランク冒険者として私の活躍と名声が世界中に轟いているということっ!


「まぁ、正式にはお前達のパーティーにだが。

 依頼主は四大国が一角、アクムス王国が現国王で依頼内容は2つ」


 アクムス王国の、現国王……?


「1つは、ある人物をアクムス王国の王都フェニルまで護衛する事。

 そしてもう一つは、アクムス王国の近海に出馬するようになった魔物、クラーケンの討伐だ」


 ふむふむ、色々つっこみたいところはあるけど……護衛はともかくとして、クラーケンの討伐か〜。


「さて、どうする?

 ソフィーとフィルでもクラーケンは……まぁ危険な相手と言えるだろう。

 指名依頼とはいえ、別に断ってもらっても問題はないが……」


「もちろん! 引き受けましょうっ!!」


 クラーケン! 相手にとって不足なしっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る