第193話 悪夢の幕開け

 とはいったものの……ダンジョンから飛び出してきた人影は、全部で4人。

 別々の方向に逃げられたら、さすがに私とフィルだけで仕留めるのは難しいな。


「ほっと!」


 氷冷の太刀を軽く振るうと同時に、広場を埋め尽くしていた氷がうごめき……前後左右360度、無数の氷の刃が4人へと殺到し、巨大な氷柱が、分厚い氷の壁が立ち塞がる!!


「これでよし」


 これで多少は時間を稼げるだろうけど……


「ふむ」


 今もダンジョンの奥からビシバシ伝わってくる、圧倒的と表現する以外に言い表しようがない強大な魔力。

 私ですら全身が竦むような、激しい怒りの波動。


 これは私が凍らせた氷を砕いて、ダンジョンから飛び出してきた4人じゃない。

 むしろこの状況を見るに、あの4人は怒り狂うこの魔力の持ち主から逃げてきたってところかな?


「なるほど」


 確かに未だにダンジョン内にいる存在に比べたら……ダンジョンから出てきた4人なんて、ガルドさんのいう通り有象無象に違いない。


 まっ、それでも私が凍結させた氷を、砕く程度の力は持ってるんだけども……

 今も絶え間なく氷を操って攻撃してるけど、所詮は足止めにしかならないだろうし。


「ふふっ、じゃあちょっと行ってくるわ」 


「ルミエ様……どうか、お気をつけて」


「ソフィーも、怪我をしないようにね」


 う〜む、やっぱり何度見てもルミエ様の転移魔法はすごい。

 何の動作も、一切の予兆すら感じさせることなく、転移しちゃうんだもんな〜。


「それで……ソフィー、どうする?」


 っと、そうだった。


「う〜ん、とりあえず……」



 パチンっ!



「これは……結界?」


「ふふ〜ん! その通りっ!!」


 この隔離結界は、魔王ナルダバートが使っていたもの。

 この結界の強度は術者の魔力量や技量によって左右するんだけど……私が展開した結界の強度は折り紙つき!!


 さすがにピアと同じ教団……光の使徒の最高幹部である十使徒クラスの敵を閉じ込めておくのは厳しいけど、あの4人程度なら問題ないのだよ!


「流石というか、なんと言うか……」


「さて……」


 これで準備整った!

 氷冷の太刀を手放した瞬間──氷冷の太刀が、広場を埋め尽くしていた氷の山が、キラキラと輝く氷の粒子となって消滅する。


「貴方達が何者なのかは知りませんが……一応警告しておきます。

 降伏しなさい、もう逃げ場はありませんよ」


 ダンジョンから出てきてすぐにこの場を離れらたら、取り逃した可能性もあるけど……

 この広場は今! 私の隔離結界で隔離してるし、周囲は高位冒険者達が取り囲んでいるのだから!!


「クソ……クソクソクソクソがっ!!

 こんなの聞いてないぞっ!?」


「まさか、あんな化け物がいるなんて」


「どうするんだよ!?」


「このままじゃあ、どのみち我々は……」


 えっと、その……


「完全に無視されたね」


「っ〜!!」


 恥ずかしいから、わざわざいわないでっ!!


「こほん、貴方達!

 ちゃんと聞いてますかっ!?」


「ア? さっきから何なんだよテメェはっ!!」


 っと、そういえばまだ名乗ってなかったわ。


「私はソフィー。

 Aランク冒険者のソフィーです」


 ふふ〜ん! ビシッと決まった!!


「なんだと……?」


 えっ? なに?

 そんなに驚かれると逆に心配になってくるんですけど……もしかして、今なにか変なところあった?


「お前が、冒険者ソフィー……だと?」


 そうですけど……


「クックック……クハッハッハッ! おい聞いたか?」


「ふふっ、私達にも運が向いてきたようね」


「そのようだな!」


「冒険者ソフィー、ねぇ。

 まぁ、お前がなんと名乗ってようが我々には関係ないが……我々にはもう後がない」


 後がない?

 いやそれ以前に、その言い草だと私の本名を知ってるような……


「クックック、そう俺達にはもう後がない。

 だが! やはり我らが神は、俺達を見捨ててはおられなかった!!

 テメェには俺達と一緒に来てもらうぞ」


 我らが神って……


「っ! まさか貴方達、教団の……」


「クックック」


 なんで教団のヤツらがここに!?

 コイツらはいったい、ダンジョンの中でなにを……?


「まさかっ! 今回のスタンピードって……」


「まぁ、冥土の土産に教えてやるよ。

 その通りだ! 今回のスタンピードは、俺達が人為的に引き起こしてやったんだよ!!

 まぁ、そのせいでこんな事態になるなんて想像してなかったがな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る