第194話 激怒
「それにしても……これは本当に凄いですね」
「兄貴のエレンの戦闘センスにも驚かされたが……これでまだ10歳ってんだから、末恐ろしいぜ」
「ふふっ、私のソフィーなんだから、このくらい当然よ」
激しく荒れ狂っていただろう大海原を。
凍りついた氷の大地を3名の人物が、常人ならば目視することすら不可能な速度で疾駆する。
「しかし、まさかルミエの転移魔法が弾かれちまうとはな」
「これは相当まずい状況ですね」
「まぁ、あの方達はね……聖域とも言えるダンジョンを荒らされたら怒り狂うのも無理はないわ」
冒険者ギルド本部。
そう呼ばれる大都市の中央に位置するダンジョン、七大迷宮が一角・大海の第10階層。
一般人は勿論、高位冒険者と呼ばれるBランク冒険者であっても、まず辿り着く事が不可能な領域。
一般的に深層と呼ばれている場所にて……
ソフィアが放った極大魔法。
全てを凍て付かせる絶対零度たる
「っと、ここまでか」
凍りついた大海原を疾駆していた3人、冒険者ギルド
そして人の姿となったルミエが一斉に足を止める。
彼らの眼前に広がるは……どこまでも続くような広大な、とてもスタンピードが。
緊急事態が発生しているとは思えないほど、不気味なほどの静寂に包まれ、波も波紋すらない凪いだ大海。
そして……
「ゼェ…ゼェ……」
海水の氷の境目。
ビチャビチャッ──!
肘から先が消失した腕から溢れ出す、夥しい血で海水を真っ赤に染めて。
息も絶え絶えで、上半身を凍りついた氷の大地に乗り出す男。
「く、そ……こんな、こんなはずじゃ……」
「よぉ、苦しそうなところ悪いが……勝手に確認させてもらうぞ。
人為的にスタンピードを誘発し、今回の騒ぎを引き起こしたのはお前さんらだな?」
「なんだ、ゼェ……お前ら、は?」
「それをテメェが知る必要はねぇ。
どうせお前はすぐに死ぬだろうしな」
「っ! なんだと!?
貴様ら! 私が誰だとっ……」
「うるせぇぞ、少しは黙ってろや。
こっちには時間がねぇんだよ」
「っ!?」
ガルドの視線を……殺気を向けられた男が、息を呑んで押し黙る。
「ティア、頼む」
「わかりました」
「な、なにを……」
「言ったはずだぜ?
クリスティアが男の額に、しなやかで美しい指で軽く触れた瞬間──
「おっ、来たようですね」
虚な目で項垂れた男の頭上に、純白のローブを身に纏い、笑みを浮かべた貴公子然とした人物が……男の記憶が映像となって映し出される。
「ふふふっ」
海面から数百メートルという上空にて、当然とのように宙に浮かんで楽しげに笑うその貴公子の……その場に集った10数名の者達の視線の先。
水竜の背に乗ってソフィア達が姿を表す。
「さぁ! 始めましょうか!!」
大仰な動作で腕を広げて、純白のローブを翻した瞬間──
ドゴォォォオッ──!!!
耳をつんざくような、地鳴りのような轟音が鳴り響いて、海面から巨大な水柱が立ち上る。
「ふふふっ、スタンピードを誘発して冒険者ギルドに打撃を与えつつ、特異点たる愛子……我々の計画に不可欠な人柱であるソフィア・ルスキューレの身柄を確保する!
行け! あの小娘を我らが手中に……」
ゴキュッ──
「……らか?」
「ッ──!?」
背後から聞こえてきた、何を潰すような音に。
その冷たい声に息を呑むと同時に、背筋に走った強烈な悪寒を受けてその場にいた飛び退いて振り返る。
「ぁ、がっ……」
肩口で切り揃えられた流れるような薄い青色の綺麗な髪に、吸い込まれそうになる美しい青の瞳。
誰もが見惚れるほどに整った容姿の美少女が……
「貴様らか?」
その青い瞳に明確な……狂ったほどの怒りを宿し。
その細く綺麗な手で……口の端から血を流し、ダランと脱力する、白いローブを羽織る成人男性の首を握り潰した美少女が……
「私の……ご主人様から任された私の聖域を!
このダンジョンを穢したのは貴様らかと聞いているっ!!」
天を衝くような、凄まじい殺気と怒気を解き放った。
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