第187話 スタンピード

「おぉ〜」


 すごい。

 まさしく天を衝くような、体長十数メートルあるキューちゃんも簡単に呑み込んでしまうほどに巨大な水柱!

 なにが起こってるのかはわからないけど……


「うん、壮観だわ」


「そんなに落ち着いてる場合っ!?」


 いやまぁ……確かに、呑気に感想をいってる場合じゃないのは認めるけど。


「冒険者たる者! 悪役令嬢たる者!

 いついかなる時も優雅で、冷静沈着じゃないとダメ」


「は? 悪役令嬢……?」


「こほん、とにかく! 今は焦ったってどうにもならないし、判断力が鈍るだけでしょう?」


 つまり! 私は別に現実逃避して、呑気に感想をいってるわけじゃないのだっ!!


「ソフィーがまともな事を言ってる……」


「し、失礼な!」


 まともなことって……


「まったく、フィルは私をなんだと思ってるの?」


 フィルは知らないだろうけど、こう見えて私はイストワール王国では才媛として名前を馳せてるんだからね!?


「唐突に突飛な事をしでかす、ちょっと常識に疎い、お転婆な箱入り娘って感じかな?」


 な、なんだって!

 まさか、フィルの中の私のイメージがそんなだったとは……


「ふふっ、まぁ間違ってはないわね」


「っ!?」


 ルミエ様までっ!?


「けど、今はそんな話をしている場合じゃなさそうよ」


 そんな話って……これは私のイメージに関する重要な……


「ほぇ?」


 っと、私としたことが、ついつい変な声が出ちゃったわ〜……って! そうじゃなくてっ!!


「な、なんですか! あれっ!?」


 視界全体に広がるめちゃくちゃ大きな波……前方から迫り来る超大規模な大津波!

 そして……その津波と一緒に海を黒く染め上げる、魔物の大軍勢っ!!


 しかも、本来なら竜種であるキューちゃんを本能的に恐れて、他の魔物たちは避けていくはずなのに……そんなことはお構いなし! って感じで一心不乱に向かってきてる!?


 いや、確かにそれも不自然ではあるけど、問題はそこじゃない!

 ぶっちゃけ、あの程度のレベルの魔物ならどうとでもなる。

 問題なのは……あの壁のような巨大な津波っ!!


「キューちゃん! とりあえず全力で逃げてっ!!」


 いくら水竜であるキューちゃんでも、さすがにあの津波に呑み込まれたらただでは済まない。


「キュッ!!」


 おぉ〜! すごいっ!!

 自分の周りの海水を操って海流を作り出してる!!

 さすがは海の中でもトップクラスの速度を誇る水竜! さすがは私のキューちゃんっ!!


「さて……ソフィー、これからどうするのかしら?」


「う〜ん……」


 この状況は明らかに普通じゃない。

 だって本来ならキューちゃんを避けて通るはずの、魔物達が突っ込んできてるわけだし。

 あの水柱と津波もだけど、狂化した魔物の大群。


「今起こっているこの事態で、最も可能性が高いのは……」


「スタンピード、だね」


 むぅ、フィルめ! 私のセリフを奪ったな!!

 文句をいってやりたいけど……今はそんな場合じゃない。


「うん」


 スタンピードとは、ダンジョン内にいる魔物がなんらかの原因で狂ったように凶暴化し、ダンジョンの外に溢れ出す現象。

 滅多に起こらない現象だし、七大迷宮でスタンピードが発生したなんて話は聞いたこともないけど。


「もし仮に、これが本当にスタンピードの序章だとすると……S級試験なんてやってる場合じゃない」


 ただでさえスタンピードは国家存続の危機。

 七大迷宮のスタンピードとなると……どんな事態になるのか、想像もしたくない。


「……とりあえず、一度ギルド本部に帰還しましょう」

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