第186話 フラグ
吹きつける心地いい風!
巻き上がる水しぶき!
「すごいすごいっ!
すごいよ、キューちゃんっ!!」
「キュッ! キュウ〜!!」
キューちゃんの背中に乗って! 大海原をいざ行かんっ!!
「キュウ!」
「おぉ〜! 頼もしい!!
じゃあキューちゃん、任せたよ!」
「キュィ〜!!」
任せてっ! だって!!
ん〜もう! 本当に可愛いんだだから!
「……本当に、どういう状況なのこれ?」
「ん?」
どういう状況もなにも……
「水竜のキューちゃんに乗って、海を移動してる状況だけど」
まっ! フィルが動揺するのもムリはない。
なにせ! 本来なら愛子は国を挙げて、手厚く保護する存在なわけだし!!
「いやまぁ、うん。
それはそうなんだけど、そういう事じゃなくて……確かにソフィーが愛子っていうのも、今にして思えば全く不思議じゃないし。
ルミエ様が加護を授けたのも納得できるけど……」
「えっ?」
不思議じゃないの? 納得できちゃうの??
私は愛子なのに……じゃあ、フィルはなんでこんなに動揺してるんだろ?
「ダンジョンを攻略するのに、ダンジョンの……それも第1階層から第10階層までの守護者。
S級試験の課題で僕達が倒すはずだった、第10階層の階層主である水竜に……」
「キュ〜!!」
「名前で呼んで、だって」
「あ〜うん、とにかく! キューちゃんに、目的地の第11階層まで送ってもらうって……どうなのかな?」
なるほど……まぁ、フィルのいわんとすることはわかる。
確かに本来ならキューちゃんは、今私達が受けているS級試験におけるラスボス!
第10階層の最奥にて、私達の前に立ちはだかる試練だったわけだし。
下位とはいえ竜種である水竜の危険度はBランクの最上位、厄災級に分類される。
さらにこの七大迷宮・大海は、その名の通りほとんど全て海で構築されているダンジョン。
足場のない海上、もしくは周囲を海に囲まれた僅かな足場となると、水竜の危険度はAランクにも劣らない。
そんな状況での水竜の討伐はもちろん!
この大海原を踏破して、第10階層まで辿り着くこと自体も、S級試験……Sランク冒険者昇格試験の課題に相応しい試練だといえる!
けど……実際には、私達の前に立ちはだかる強敵であるはずの水竜、キューちゃんがいきなり現れて。
さらには、嬉々として目的地まで私達を運んでくれてるわけだしね。
しかも! キューちゃんは第10階層を守る階層主。
つまり、この第1階層から第10階層までにキューちゃんに敵う敵は存在しないし、そもそも襲ってすら来ない。
S級試験は既に破綻してるといっても過言じゃない状況だからね。
「釈然としないのはわかるけど……仕方ないじゃん。
だって、本来は第10階層の最奥にあるはずのキューちゃんが、無意識にルミエ様に惹きつけられて私達の前まで来ちゃったんだもん」
こればっかりはどうしようもない。
いわば不可抗力なのだ!
「それに! この試験のラスボスである水竜を引き寄せ、手懐けて、運んでもらったらダメなんてルールはないし!!」
「そうね、この状況を想定してなかったギルドが悪いのよ」
ルミエ様のいう通り!!
私達はちゃ〜んと、ギルドが提示したルールに則ってS級試験を遂行中なのであって、ズルとかルール違反は一切していないのである!!
うんうん! 正義は我らにありっ!!
「いや〜流石にギルドもこんな事になるなんて、想像してなかっただろうし。
この状況を想定しろっていうのも、無理があると思うけどね」
「……」
まぁ……否定はしない、というかできない。
「まぁ、多少釈然としないところはあるけど……とりあえず、これで何事もなく試験は終わりそうだね」
「ッ〜! フィ、フィル、なんてことを……!!」
「えっ? なに?」
「フィル! そんなわかりやすくフラグを立てるなんて!!」
「フラグって、そんな……」
ドゴォォォオッ──!!!
「きたっ!」
いきなり前方の海面が爆ぜて、巨大な水柱が立ち上る!
「うそでしょ……」
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