第185話 竜眼

「キュィィ──!!」


 咆哮を上げながら、水しぶきを上げて突っ込んでくる水竜。

 10数メートルほどはある巨体とは思えない速度と迫力っ!!

 下位とはいえ、さすがは竜種! だけど……


「フィル! ルミエ様! 今の見ましたかっ!?」


 キュィィ──って! キュィィ──って!!

 以前にイストワール王国の王都ノリアナ近郊にあるダンジョン、魔法神の試練の湖で水竜を見たときも思ったけど……水竜の鳴き声って、めっちゃ可愛いっ!!


「ちょっ、ソフィー!? そんな事を言ってる場合じゃ……!」


「えっ?」


 なにをそんなに焦って……


「あっ! あぁ〜、なるほど!!」


 そういえば、フィルは知らないのか。

 それならフィルが焦ってるのも納得だわ。


「うんうん!」


 フィルの実力なら、下位の水竜なんて敵じゃないだろうけど……竜種は竜種!

 最強の種族と呼ばれる、竜には変わりないしね。


「ソフィー?」


「こほん、ここは任せてもらおう! ふふっ、フィルには特別に見せてあげる」


 本当なら隠してる方がいいんだろうけど……まっ、フィルなら問題ない!


「キュィィ──!!」


「ふぅ〜」


 目をつむって、深呼吸して精神を整えて……


「──控えなさい」


「キュィッ!!?」


 瞬間──水しぶきを巻き上げて、突進してきていた水竜が驚愕の声を上げながら動きを止める。

 いきなり水竜が止まった振動で、ここまで海水がシャワーみたいになって降り注ぐ!!


「気持ち〜!」


 これはアレだ!!

 前世の記憶にある、テーマパークとかでアトラクションが巻き上げる水しぶきを浴びたような感じ!!

 むふふ〜、また1つ前世の記憶にあることを体験しちゃった!!


 まぁ、おかげで全身水浸し! 気持ちよかったし、別にいいんだけども。

 唯一水着に着替えてなかったフィルが、全身びしょ濡れになってるけど……まっ、それも乾かせば問題ない!


「うん、とりあえず私がいえることはただ1つ!

 とりあえず水着に着替えててよかった〜」


「ふふっ、確かにそうね」


「……」


 フィルの視線が若干冷たいけど……細かいことは気にしない!


「さてと」


「キュッ──!!」


 おぉう、ちょっと視線を向けただけなのに、明確にビビられてしまった。

 微動だにせずに固まって、こっちを、私を凝視する水竜の目に、その顔に浮かぶは……明確な恐怖、上位者に対する畏怖の念。


「……ふふっ! こっちにおいで〜」


「キュっ、キュゥ〜……」


 めっちゃ不安そうな顔だけど……まぁ、無理もないか。

 なにせこの水竜にとって私は、ついさっきまで殺そうとしてた相手なわけだし。

 けど! 私の器を舐めてもらっては困る!!


「むふっ〜、いい子ですね〜!

 よしよししてあげます!!」


「キュィ〜」


 むふふ〜! 最初はビクビクしてたのに、私の手にかかればこの通り!!

 なにせっ! 魔法神の試練にて、好きなだけ水竜は撫で回た! 我がゴッドハンドでこの水竜も、私に懐かせて……こほん、手懐けてやるわ!!


「キュイ! キュゥ、キュゥ〜!」


「むっふ〜!」


 もっと撫でてといわんばかりに、鼻を押し付けてきて! この愛やつめ!!


「……それで、これはどういう事なの?」


「よくぞ聞いてくれました!!」


「っ! それは……」


「そう、答えは……これ!」


 私の顔を見て唖然とするフィルに向かって、指を指すのは私の目!!


「ふっふっふ〜ん! 実は私、ルミエ様がくれた、白竜王の加護を持ってるんだけど。

 この瞳は、その加護のおかげで使えるようになった権能!!」


 前に鏡で見たけど今の私の目は、紫の瞳に竜種と同じような縦長の、金色の瞳孔をしている。


「その名も……竜眼ドラゴン・アイ

 生物に本能的な恐怖と畏怖を与える竜の瞳。

そして……なんと! 私はこの瞳の権能で、格下の竜種を従えることができるのです!!」

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