第171話 英雄のお茶会

 気まずい……


「へぇ、この子がお嬢様の……」


「これでまだ10歳。

 修行を始めて5年だぜ? 末恐ろしいだろ?」


「ふふっ、ソフィーちゃんは天賦の才を持った天才だもの」


「ん、流石は私のソフィア」


 めっちゃ気まずいんですけどっ!!

 なにこれ!? もうなにがなにやら……いったいどうして! なんでこんなことになってるのっ!?


 と、とりあえず落ち着け!

 私は未来の悪役令嬢っ! 完璧な淑女として名を馳せる女……ソフィア・ルスキューレっ!!

 この程度で取り乱す私ではない!! 落ち着くのだ私っ!!


「確かに……流石は彼らの娘にして妹、って感じですね」


「くっくっく、確かにな!」


「大笑いして、まったく……いつまで経っても粗暴なんだから。

 これだから男は……」


「レフィーお嬢様、こちらのケーキはいかがですか?」


「おぉ〜! 当然食べる!!」


 綺麗な庭園にある美しい湖、その湖の中心にぽつんと橋もなく存在する白亜の四阿。

 確かに幻想的で、すごく綺麗な場所だし。

 こんな場所で優雅にお茶を楽しむのは、さぞ楽しいと思うけども……


 マリア先生、ガルスさんにレフィーちゃん。

 そして学園の結界を打ち砕いて、登場した謎の男の人がテーブルを囲み。

 美しい所作で完璧な給仕をおこなう、メイド服に身を包んだ謎の美女。


「……」


 うん、やっぱり無理!!

 全然落ち着けない! 気まずすぎるっ!!

 なんで私はこんなメンツと一緒に、こんな場所でお茶をしてるわけ?


 いきなり転移魔法で連れてこられたけど……これって、どういう状況なのっ!?

 学園の結界を打ち砕いて、いきなりやってきたこの男の人は敵じゃなかったの?


 しかも……なぜか、めっちゃ興味津々って感じで注目されてるし。

 それに、なんか皆さんお知り合いみたいだし……私だけ場違い感がハンパないんですけど!!


「あ、あのぉ……」


「ん? ソフィアも、食べる?」


 いや、そうじゃなくて……


「はい、あ〜ん」


「あ〜ん!」


 美味しいっ!


「レフィーお嬢様、お行儀が悪いですよ」


「むっ、ちょっとくらい、問題ない」


「はぁ……ソフィア様、お気に召されたのでしたら、こちらをお召し上がりください」


「わぁ、ありがとうございます!」


 さすがは完璧なメイドさん!

 レフィーちゃんと同じケーキをサーブしてもらっちゃった!! ……じゃなくてっ!!

 いやまぁ、ケーキはありがたくいただきますけども!!


「こほん、それでですね……この方はいったい? それに、ここは……」


「そういえば、自己紹介がまだだったね。

 初めまして、俺の名前はアーク。

 そうだね……ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢、貴女の兄君達の兄弟子と言ったところかな?」


「お兄様達の……」


 いや! それ以前にっ!!

 どうして私のことを……


「あはは、俺達の間でも貴女は有名人だからね」


「そ、そうですか」


 俺達の間って……ん? ちょ、ちょっと待って!!

 アークって、まさかあのっ!? い、いや、さすがにそれは……なにせあの人はマリア先生達と同様に、約400年前の聖魔大戦に活躍した伝説の英雄だし。


「こう見えて、コイツも雷帝なんて呼ばれてる実力者でな」


「雷帝……」


 いやまぁ、このメンツ……マリア先生は大賢者、ガルスさんは冒険王なわけだし。

 もしかして、とは思ってたけども……というかことは、本当にこの人が……


「まぁ、いきなり学園の結界を破壊して現れて、印象は良くないだろうが……悪いやつじゃねぇから安心してもいいぞ」


「ガルスさん、ガルスさん!

 じゃ、じゃあこの人が本当に、あの伝説の冒険者パーティー! 星屑の剣のリーダー、雷帝アーク様なんですかっ!?」


「お、おう、そうだ」


「っ〜!!」


 ど、どうしようっ!?

 伝説の英雄が! 雷帝アークが私の目の前にっ! 同じテーブルでお茶をしちゃってるっ!!


「そういえば……ソフィーちゃんって、英雄譚とかが大好きだったわね」

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