第156話 最初から説明しますね

「「来た……?」」


 まぁ、ウェルバーとミネルバが気づけないのも仕方ない。

 なにせ……


「ソフィーちゃんっ!!」


「むへっ!」


「「「ソフィーっ!!」」」


 十四賢者の一角に名を連ねるアルトお兄様の転移魔法は、本当に精度が高い。

 魔力の揺らぎがほとんどないし、発動速度も素晴らしい。

 オルガマギア魔法学園の生徒でも、アルトお兄様の転移魔法に気づける者はほとんどいないと思う。


 私ですら、気を抜いてるときは気づけないほどだし……さすがは私のお兄様っ!!

 そんなアルトお兄様の転移魔法でやって来たんだから、ウェルバーとミネルバが気づけないのも仕方ない……というよりも、むしろ当然といえる。


「あぁ! ソフィーちゃん!!」


 けどまぁ……


「ソ、ソフィアお姉様っ!?」


「ちょっ! ルスキューレ夫人!?」


 うん、ウェルバーとミネルバがびっくりしちゃうのはわかるよ?

 だって転移してくると同時に、凄まじい速度でミネルバに膝枕されてた私をお母様が抱きしめてるわけだし。

 だが、しかしっ!!


「本当に無事でよかった……!」


「ソフィー、怪我はない?」


「まったく、ウチの末っ子は……」


 お母様に抱きしめられてるにも関わらず、そんなことはお構いなしにヒシっ! って抱きしめてくるお父様にお兄様達。

 これが……ルスキューレ公爵家での日常なのだ!!


「ぷはっ〜、もう! お母様!!

 お父様に、お兄様達も! いきなり抱きつくからウェルバー殿下とミネルバが戸惑ってるじゃないですか!」


「あら、ごめんなさい。

 心配だったからついね」


「だから言ったでしょう?

 ソフィーは無事だって」


「ルミエ様!」


「あら、ルミエ様も途中までは焦っていらしたではありませんか」


 ほほう、ルミエ様が焦って……


「お母様! その話、詳しく」


「ふふっ、実はね……」


「こほん、それよりも! ソフィー、あの人はどうだった?」


 あの人……


「っ! ルミエ様、なぜそれをっ!?」


「ふふっ、あの人は強かったでしょう?」


 それはもう! まさに圧倒的、頂点に君臨する者って感じでした!!


「さっきルミエ様が言っていた方ですね」


「あぁ、その人がダンジョンに向かったから問題ないって言っていた……」


「あの時は焦っていたから気に留めてなかったが、ルミエ様がそこまで仰る方ね」


「ソフィーちゃん、あの人って?」


「実はですね……」


「あ、あの、ソフィアお姉様……」


「「「っ!?」」」


 あっ……わ、私としたことが! ここはまだダンジョンのなかだし、目の前には上半身が消し飛んだピアの亡骸もあるのにこんな話をしてる場合じゃなかった!!

 というか、お父様達はなにをそんなに目を見開いて……


「ソ、ソフィー」


「はい、なんでしょうか? お父様」


「い、今、彼女が……エルヤード公爵令嬢がソフィーの事をお姉様って呼んだ気がするんだけど……」


「呼びましたけど?」


「「「……」」」


 えっ? なに??

 なぜかお父様とお兄様が硬直しちゃったんですけど……


「あの、お父様? お兄様?」


「はぁ……このおバカさん達は放っておいて構わないわ、どうせ下らない事を考えてるだけでしょうから」


 おぉう、お母様が辛辣だわ。


「それよりも、とりあえず状況を説明してもらえるかしら?

 エルヤード公爵令嬢がソフィーちゃんをお姉様と呼ぶ理由もだけど……ルミエ様の言うあの人の事、あそこの上半身がない亡骸の事も」


「わかりました。

 では! 最初から説明しますね」


「お願いするわ」


「こほん、実はですね……」

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