第150話 十使徒
ふふっ〜ん! どうだ、見たかっ!!
「ッ……!! アナタ、今なにをしたのかわかってるの?」
なにを? 普通に地面を蹴って肉迫し、すれ違いざまに復活した我が愛刀を一閃しただけだけど?
そう! ナルダバートとの戦いの途中で折れてしまったものの、ルミエ様の鱗をはじめとした、さまざまな素材によって復活を遂げた私の愛刀でっ!!
「ふっ、ただ普通に移動して、普通に斬った。
それだけです」
決まった!
我ながら、今のはめっちゃカッコよかったんじゃないかな!?
「普通に、斬った……?
貴女が、この私の左腕を? ナルダバートに苦戦していた貴女が?」
「いったはずですよ……今の私の全力は、さっきまでの。
あのときの比じゃありません」
確かにナルダバートと戦ったとき、私とナルダバートの間には大きな実力差が存在した。
その事実は認めよう。
ぶっちゃけ、あのとき私が勝てたのはナルダバートが油断し、慢心を抱いてくれていたから。
もし最初から最後まで油断することなく、本気で戦われていたら確実に負けていたと断言できる。
けど……私は日々、強く!
最強の存在へと至るために、進化しているのだ!!
言葉通り、今の私の実力は、ナルダバートと戦っていたときとは比べ物にならないのだよっ!!
「アナタが、このワタシを?
ワタシの、腕を……」
「むっ?」
なんか様子が……
「よくも……よくも! よくも! よくも! よくも、このワタシにっ!!
慈愛のピア様にキズを付けたなっ!?」
「……」
怖っ! さっきのミネルバもだけど、いきなり豹変しすぎじゃないっ!?
い、いや、落ち着け私! 私はいついかなるときも優雅で、冷静沈着な孤高なる悪役令嬢!!
この程度で取り乱す私ではないっ!
「やはり、特異点たる愛子は邪悪な存在!
私の主の、光の神のモノであるワタシの身体にキズをつけるなんて!!」
「光の神?」
教団……光の使徒が、崇める存在のことかな?
「ふぅ〜……私としたことが、少々取り乱してしまったみたいですね」
おぉう、いきなり冷静になった……
「けど、こんな邪悪な神の手先が、我々の計画に必要不可欠だなんて……嘆かわしいです」
私が邪悪な神の手先?
「それはどういう……」
「まぁ、いいです。
とりあえず! 特異点たる愛子ソフィア・ルスキューレ、貴女は神のモノであるこの私の身体にキズを付けた。
これは決して、赦される事ではないのですよ?」
教団の少女の……ピアの禍々しい黒い魔力が斬り落とした左腕の切断面と、地面に落ちた腕を包み込み……
「けど、貴女は私達の計画に必要な存在! だから、特別に赦してあげます!!」
「っ!」
フワッと黒い魔力が霧散すると同時に、地面に落ちていたはずの腕が消失し、最初からなにもなかったかのように。
そこにあるのが当然であるかのようにピアの腕が再生された!!
「まぁ尤も、貴女の犯した大罪を赦して、我らが光の神の元へと……死という慈悲を与えてあげるのは、全てが終わった後ですけどね。
うふっ! 私の身体にキズを付けるだなんて、大罪を犯した者もちゃんと赦してあげる私はなんて慈悲深いのでしょう!!」
「殺すことが、貴女にとっての慈悲だと?」
「あ〜! もしかして、ソフィーちゃんも死は慈悲じゃない! とか言っちゃう人ですか?」
ソ、ソフィーちゃん?
「まったく、わかっていませんね。
死とは、この世における全ての苦痛から解放されて、神の元へ行く事ができる唯一の手段!
これが慈悲ではなくて、なんと言うのですか!!」
「……」
うん、教団かぁ〜。
確かにこの様子を見ると……言い得て妙だわ。
「っと、邪悪な神の手先であるソフィーちゃんに、こんな崇高な思想を説いても無意味でしたね!
とりあえず、無駄な足掻きはやめて降伏してくれませんか?」
「むっ!」
無駄な足掻きとは、いってくれるじゃんか!
「たった今、私に腕を切断されたことを忘れましたか?」
「当然、ソフィーちゃんの犯した大罪は覚えていますよ?
あぁ〜! わかりました!! ナルダバートに勝利し、私の腕を切り落とせた事で勘違いしてしまったみたいですねっ!」
「勘違い?」
「こほん! では、改めて自己紹介してあげる!!
私は光の教団が最高幹部である十使徒が第七使徒、慈愛のピアちゃんで〜す!
同じ最高幹部である十使徒の中でも末席、第十使徒だったナルダバートとは格が違うのです!!」
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