第148話 この私が許しませんっ!!

「本当の? ルスキューレ嬢、それはどういう……」


「そのままの意味です」


 そもそも、不自然だと思っていた。

 どうしてミネルバは、あそこまで私のことを憎悪しているのか。

 どうして普通の公爵令嬢でしかないミネルバが、呪いなんてモノを使えるのか。


 確かに昔から会うたびに、ミネルバはウェルバーと一緒に色々と嫌がらせをしてきてたけど……ちょっとまえまでは、私のことを嫌っていても、あそこまでの憎悪は抱いていなかった。


 それに、呪いは解除された場合のリバウンドがあったりと、リスクが高いことから随分と昔に廃れた技術。

 もちろんミネルバは使えなかっただろうし。

 魔力だって、あんな禍々しい黒い魔力じゃなかった。


「ミネルバは、あの者に利用されていたんですよ」


「っ!?」


「あの者がミネルバに禍々しい黒い魔力を与え、呪いの方法を教えたんです……違いますか?」


「私が? それは面白い考察ですね……ですが、なにを根拠にそのような事を?」


 なにを根拠にって、この状況で白々しい!


「そう考えれば、色々と説明がつくんです」


 思えば、ミネルバの様子はおかしかった。

 いきなり笑い出したし、憎悪を露わにしたり、スンと急に落ち着いたりと、久しぶりに再開したミネルバ常に情緒不安定だったし。

 けど……


「貴方がミネルバの持っていた劣等感や嫉妬。

 負の感情を増幅させて憎悪を植え付け、魔法かスキル、または違うなにかか、方法はわかりませんがミネルバを洗脳した。

 そう考えれば、ミネルバの様子がおかしかったことも納得できます」


 そもそも! ミネルバが言葉巧みにエルヤード公爵を操り、家族間のパワーバランスをコントロールしてたなんて不自然すぎる。

 だって……ミネルバってウェルバーと同い年でまだ8歳だもん!!


 確かに、ミネルバの悪役ムーブはすごかったよ? それこそ、真の悪役令嬢であるはずの私が若干食われかけちゃうほどには!

 でもミネルバがエルヤード公爵をうまく誘導するように、背後でミネルバを操っていた何者かがいたと考えた方がしっくりくる。


「ふふっ、まぁこの状況ならバレてしまっても仕方ありませんね」


「お前が……」


 ウェルバーが目を見開いてるけど、その気持ちはわかる。

 なにせ、深く被っていたフードを脱いで露わになった素顔。

 確かに整った容姿をしてるけど……どこからどう見ても、15歳前後くらいの普通の少女にしか見えないし。


「よくもミネルバをっ!」


「殿下、落ち着いて!」


「だがっ!」


「厳しいことをいわせてもらいますが、ハッキリいって今の殿下では、怒りに任せてあの人に立ち向かったところで一瞬で殺されるだけです」


「っ……!」


 実際、私の放ったナイフも普通に受け止められてるし……それも、雷属性の魔力を纏わせて速度、威力、貫通力を底上げしたナイフをだ。

 鎧も、盾も、並大抵のものなら簡単に破壊する威力に、ノーモーションからの一撃。


 大抵の者なら反応すらできない初見殺しなのに、それを素手で受け止められた!

 この事実だけで、一見普通の少女のように見えるあの人が、とんでもない強者だってことは見てとれる。


「ふふっ、ウェルバー王子、私に怒るのは筋違いじゃありませんか?

 私はこの子に、ちょっとしたアドバイスをしてあげただけですよ?」


「っ! 貴様っ!!」


「うふっ、あぁ〜! 王子様に睨まれちゃった!

 私、怖いです〜!!」


 うわぁ……なんか虫唾が走った。

 なんというか……うん、人の神経を逆撫でするのがうまいわ。


「ウェルバー殿下、挑発になったら相手の思う壺ですよ」


「……はぁ〜、わかっていますよ」


 よかった、思ったよりも冷静そうだ。

 さすがに冷静さを失ったウェルバーを庇いながら、あの人と戦うのは厳しいそうだから助かった!


「……つまらないですね。

 私の挑発を受けてもその反応、これも貴女が特異点たる愛子だからですかね?」


 あの人の〝特異点の愛子〟っていう私の呼び方。

 ナルダバートも私のことを同じように呼んでたし……まず、間違いない。


「貴女……教団の者ですね?」


「……へぇ、そこまでバレちゃってるとは思っていませんでしたよ」


「っ!?」


「ウェルバー殿下、私の後ろに」


 笑いながらチラッと視線を向けられただけでこの殺気!

 こんなピリピリした感覚を味わうのは2回目だわ。

 まさかとは思ったけど……やっぱり、この人の実力は魔王だったナルダバートと同等!!


「うふっ! 少しは私を楽しませてくださいね? っと、その前に……この子はもう必要ありませんね」


「ヒッ……」


 全ての呪いが解除された事実に脱力して、両膝を突いていたミネルバが向けられた視線に。

 教団の少女から向けられた、愉悦に塗れた殺気に引きつったような悲鳴をあげる。


「不要なゴミを先に排除してしまいましょう」


 唖然と恐怖に染まった目を見開いて見上げるミネルバに向かって……教団の少女が、その腕を振り降ろし……


「……ぇ?」


「へぇ〜、やりますね」


 その手刀を、この私が腕を掴んで受け止めるっ!!


「なん、で……」


「ミネルバ、安心しなさい。

 幼い子供を洗脳し、利用するだけ利用して、用済みとなったらあっさりと切り捨てる。

 そんな最低のクズは、この私が許しませんっ!!」

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