第147話 貴方が……

「ミネルバ……」


 ウェルバーが目を見開いて、愕然も呟いちゃうのも仕方ない。

 確かにウェルバーは聡明で早熟してる。

 将来的に国王の座を巡って、セドリックとの王位継承争いに発展しないために自ら愚者を演じるほどに。


 まぁ、今回の騒動で王位継承争いに発展しかけちゃってるんだけども……とにかく! ウェルバーがどれだけ聡明で、早熟してたとしても、まだまだ8歳の子供。

 この反応はむしろ当然といえる。


「けど……」


 漆黒の魔力と黒いドレスを身に纏って、私達の目のまえに舞い降りるこの姿。

 王城での一幕でも若干思ってたけど……今のミネルバの方が、私よりも確実に悪役令嬢っぽいじゃんかっ!!


「どうしてウェルバー様がこちらに?

 ソフィア・ルスキューレ、私は1人で来るように伝えましたわよね?」


「っ!!」


 この怒りや憎悪……そして、殺意。

 負の感情に満ち溢れて、黒く濁ったようなミネルバの視線!


「うふふ、恐怖で声も出ないのかしら?

 あのソフィア・ルスキューレが無様なこと!」


「えっ?」


 いや、別に怖がってるわけでは……


「なにが完璧な淑女よ! なにが淑女の鏡よ!!

 ちょっと周りからチヤホヤされていい気になって! あぁっ! 憎い、憎い憎い憎い憎い憎いっ!!」


 えぇ……私、そんなに憎まれるようなことなにかした?

 むしろ! 会うたびに嫌がらせをされてたのは私なのに……


「あら、私としたことが、少し取り乱してしまいましたわ」


 おぉ……いきなり落ち着いた。

 この豹変具合が地味に怖い!


「それにしても、私も随分と甘く見られているようですわね。

 王城に仕掛けた呪いが嘘だとでも? それとも、私が呪いを発動させないとでも思っていたのかしら?」


「ミネルバ! 僕の話をっ……」


「ウェルバー様……貴方までその女を選ぶのですねっ!!

 許せないっ! その女をチヤホヤする国なんて滅びて、みんな死んでしまえばいいのよっ!!

 うふふっ! さぁ、呪いに包まれるといいわっ!!」


 ミネルバから黒い魔力が吹き荒れ……


「なに、これ……?」


 まぁ、なにも起こらないんだけどね!


「なんで呪いが発動しないんですのっ!?」


「それは簡単です。

 私達がここに来るまえに、ミネルバ様が王城に仕掛けた呪いを解除したからですよ」


 ふっふっふ〜ん! どうだっ!!

 お兄様やマリア先生に皇帝陛下達! そしてこの私にかかれば、ミネルバが王城に仕掛けた呪いを解除することなんて雑作もないのだ!!


「なんですてっ!?

 そんなはずないわっ! 王城にはいくつもの呪いを……」


「えぇ、確かに王城には遠隔操作で起動できる無数の呪いが仕掛けられてました。

 ですが、アルトお兄様達の実力を軽く見すぎていましたね」


「そん、な……」


 ミネルバが姿を消してから約半日、ミネルバ王城に仕掛けた呪いは全て解除した!

 それに! 万が一なにかあっても、兄様達は王都で待機してし抜かりはない!!


「さて……」


 とりあえず、これでミネルバの狙いを1つは阻止することができた。

 あとは……


「そろそろ、出てきたらどうですか?」


「ルスキューレ嬢? いったい何を……」


 まぁ、ウェルバーが気づけないのも無理はない。

 だがしかしっ! この私の目は誤魔化せないっ!!


「ウェルバー殿下、ミネルバはなぜここに私を呼び出したのだと思いますか?」


「それは……ルスキューレ嬢を始末するため……」


「その通りです。

 ですが……私達が王城の呪いを嘘だと判断し、お兄様達と一緒に来る可能性もゼロではありません。

 そのような場所に、彼女が1人で待ち受けていると思いますか?」


「と、言う事は……」


「えぇ、魔法やスキル。

 なんらかの方法で存在を隠蔽しているようですが……ミネルバの背後、そこにいるのはわかっていますよっ!」


 一切の予備動作なく、雷を纏わせて放ったナイフが真っ直ぐに飛来し……



 バチッ、バチッ……



「なっ!?」


 唖然と呟くウェルバーの……私達の目の前で、ナイフがなにもない空中で停止する。


「ふむ、まさか私の隠密を見抜かれるとは……」


 どこからともなく、そんな声が鳴り響き……


「流石は、特異点たる愛子といったところか」


 2本の指で私が放ったナイフを受け止めた人物が……


「貴方が、本当の黒幕ですね」


 純白のローブを身に纏った人物が、空気のベールを脱ぐようにして現れた。

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