第146話 第二王子ウェルバー

 禍々しい黒い魔力に包まれて、ミネルバが姿を消してから約半日!

 1ヶ月半ぶりにやって来ました! 王都近郊にあるダンジョン〝魔法神の休息所〟!!


「よし!」


 この先に待ち構えているであろう、ミネルバのもとへといざ行かんっ!!


「行きますよ! ウェルバー殿下!!」


「……ルスキューレ嬢、いつもとキャラが変わってないか?」


 おっと、私としたことが!

 久しぶり、3回目のダンジョンでテンションが上がっちゃってたわ!!


「こほん、ウェルバー殿下。

 貴方は貴族の御令嬢が、ダンジョンに足を踏み入れるなんてことが許されると思いますか?」


「い、いや」


「そうでしょう!

 通常ならば危険だからと、決して入ることができないダンジョンに私は今いるのですよ!?

 ちょっと興奮しちゃっても仕方ないと思いませんか?」


「そ、それはだな……」


「思いますよね??」


「あぁ! 思う! 思うからそれ以上近づかないでくれっ!!」


 近づかないでくれって……あっ、熱弁するあまり、無意識のうちにウェルバー殿下に詰め寄っちゃってたわ。


「あら、失礼いたしました」


「……はぁ」


 むっ、せっかく淑女としての仮面をかぶって謝ったのに、ため息をつかれてしまった。


「いつもの完璧な公爵令嬢から豹変し過ぎだろ……」


「なにか仰いましたか?」


「いや、ただ今の淑女然とした姿と、さっきまでの姿。

 いったいどちらが、ルスキューレ嬢の本当の姿なのかと思ってな……」


「ふふふ、淑女とは幾重もの仮面をかぶっているものです」


「はは……」


 そういえば、ウェルバー殿下とこうして2人で話すのは初めてな気がする。

 ウェルバー殿下は苦笑いしてるけど……私の中のウェルバー殿下はワガママでプライドが高く、傲慢でおバカな子供ってイメージだったんだけども……


「ウェルバー殿下こそ、随分と分厚い仮面を着けていらしたようですね」


 こうして話してみると、兄であるセドリックよりも優秀そうな片鱗が見え隠れしてるし。


「……はぁ、バレてしまったら仕方ない。

 こんな状況下で愚かなふりをしても仕方ないからね」


 おぉう、もう隠す気もないんだ。


「どうして愚かなふりを?」


「僕は玉座になんて興味がないからだよ、王位継承争いなんかで国が荒れて被害を被るのは国民だしね。

 けど……野心家のエルヤード公爵は僕を玉座に着けようと画策。

 その上、ルスキューレ嬢には言うまでもないと思うけど、兄上はあの調子でしょう?」


「まぁ……そうですね」


「だったら、僕も兄上と同等かそれ以上に愚かな愚物だと、周囲に思い込ませればいい。

 幸いな事に、近くに見本もあったしね」


 なるほど。

 つまり王座に興味はないけど、セドリックがこのままじゃあ第二王子である自分が次期国王になりかねない。

 だから自身もセドリックと同じように振る舞っていたと。


「まぁ、そのせいでルスキューレ嬢には嫌な思いをさせてしまった……申し訳ありませんでした」


「いえ……ですが、セドリック殿下よりもウェルバー殿下が次期国王となられた方がよかったのでは?」


「あはは……実はルスキューレ嬢の兄君であるエレン殿に、自由に世界中を飛び回る冒険者に憧れているんだ」


「っ!?」


 ウェ、ウェルバーが冒険者にっ!?


「だから国王にはなりたくなかった。

 公爵でも厳しいかもしれないけど……公爵令息であるエレン殿のように冒険者になれる可能性もゼロじゃないからね。

 とまぁ、さっきは色々と言い訳をしたけど、つまりはただの僕のワガママだよ」


 ま、まさか……まさか! 冒険者に憧れていた同志が、こんなところにいたなんてっ!!


「わかります!」


「へ?」


「私もお兄様達が冒険者だからか、小さい頃から冒険者に憧れていたので、ウェルバー殿下の気持ちは痛いほどにわかります!!」


「っ! やっぱり! ルスキューレ嬢なら、わかってくれると思ってたんだ!!

 なにせ、ルスキューレ嬢は本当に冒険者になり、その名を轟かせてるしね」


「その通りです!!」


 ……あれ?


「ふふっ、ルスキューレ嬢」


「……」


 ま、まままま! まずいっ!!

 つい勢いで、認めちゃったぁっ!?


「そ、そのですね。

 これはですね……」


「ぷっ! そんなに慌てないで大丈夫だよ。

 別に誰にも言うつもりはないから」


「ほ、本当ですか!?」


 よかった〜。


「けど……まさか、こんなに簡単に引っかかるとはね」


「うぅ〜!」


 は、恥ずかしすぎるっ!

 こんなことならダンジョンに向かうときに、自分も行くっていい出したウェルバーに反対するべきだったっ!!

 ど、どうにかして話題を逸らさなければ!!


「あっ! ほら、到着したようですよ!!」


「そのようだね」


 ウェルバーと一緒にダンジョン内を進むこと10分ほど。

 私達を取り囲むように、広大な草原に満ちる禍々しい黒い魔力……


「来ます」


「うふふふっ!」


 どこからともなく、笑い声が鳴り響き……


「待っていましたわよ、ソフィア・ルスキューレ」


 漆黒のドレスに身を包んだミネルバが、黒き魔力を身に纏って私達のまえに舞い降りた。

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