第144話 黒幕

「おぉ〜!」


 これが解呪っ!!


「す、凄い……」


 目の前の光景に唖然と目を見開いてるセドリックと同じ感想になるのが癪だけど……確かにすごいっ!

 さっきまでの、全ての悪意を詰め込んだような気持ち悪い禍々しい魔力も消失したし。

 なにより、幻想的なこの光景!


「ふふん!」


 さすがは私のお兄様だわっ!!

 国王陛下やフローラ様も目を見開いてるし、近衛騎士の人達だって……


「っ! これが王国最高峰の……賢者と呼ばれるアルト殿の実力……!!」


 アルトお兄様のすごさに驚いてるのはいいとして、なんでガイルはちょっと悔しそうなんでだろ?

 この状況で悔しがる人といって、真っ先に思いつくのは2人に呪いを掛けた犯人だけど……


 呪いは解呪された場合、その呪いが術者に跳ね返るというリスクが伴う。

 よって、呪いのリバウンドに襲われてないガイルは犯人じゃないってことだし……う〜ん、わからん!


「ア、アルト殿……どうなった?」


「2人は無事なの?」


「えぇ、これで解呪は完了しました。

 後は自然と目を覚ま……っ! そう言うことかっ!!」


「アルトお兄様?」


 いったいどうしたんだろ……


「うっ……ぅぁぁっ!」


 い、いきなりどうしたのっ!?

 なんで突然、ミネルバが苦しみはじめてっ……


「まさか……」


 そんなことが?


「アルト殿! これはいったい!!」


「ど、どうなっているの!?」


 国王陛下達が取り乱すのも無理はない。

 2人を蝕んでいた呪いが解かれたと思ったら、突然ミネルバが苦しみはじめたわけだし。

 けど、これは……


「きっと、長時間呪いに蝕まれたせいです!

 エルヤード公爵令嬢は第二王子殿下の婚約者として、多少の護身術は習っているとはいえ、か弱い貴族の御令嬢。

 恐らく、呪いによって酷く衰弱しているんでしょう」


「っ!?」


 ガ、ガイル!?


「その証拠に王族として耐性が高く、尚且つ日常的に剣術などの訓練を行なっているウェルバー殿下はご無事です。

 陛下、恐れながら、すぐにでもエルヤード公爵令嬢に回復魔法を施すべきです」


 あ、あのガイルが……あの、ガイルが成長してるっ!?

 ちょっと前までは、いきなり部屋に乗り込んできたり、自分の立場に調子に乗ってたおバカなお子様だったのに!!


「そ、そうだな!

 すぐに回復魔法が使える者を……」


「それには及びません。

 回復魔法なら私も使えますし、何よりここには回復のスペシャリストがいますからね。

 ファナ、手伝ってもらえるかな?」


「かしこまりました」


 綺麗に一礼したファナが、ベッドでうなされながら苦しむミネルバに軽く手を翳し……


「健やかなれ」


 瞬間! さっきまでの禍々しい魔力とは真逆な、どことなく神聖で清らかな魔力が満ちる!!


「さて……」


「どうなるか」


 ファナによる回復を固唾を飲んで見守る国王陛下とフローラ様、セドリックにガイルをはじめとする近衛騎士達。

 そして……鋭い眼差しで、を見つめるマリア先生に皇帝陛下御一行をはじめとした私達。


 呪いについて知らない国王陛下達とは真反対のはんのうになっちゃってるけど、こればっかりは仕方がない。

 ファナのことだから、ミネルバは無事に回復するだろうけど……吉と出るか、凶と出るか。


「ぅっ……」


「ここは……」


「っ! 気が付いたか!」


 ふむ〜、さすがはファナ。

 この短時間で目が覚めるまで回復させちゃうとは……


「父上?」


「ウェルバー……無事で、よかった……」


「っ!? い、いったいどうなされたのですか?」


 ふふっ、ウェルバーが国王陛下の安堵したような様子に戸惑ってる!


「ウェルバー、ミネルバさん。

 貴方達2人は何者かの呪いによって、昨日からずっと昏睡状態に陥っていたのよ」


「呪い……」


「それを賢者であるアルト殿が解呪して、こちらのファナさんが回復してくれたの。

 2人とも……本当に無事でよかったわ!」


「ルスキューレ公爵家が僕達を……」


 まぁ、ウェルバーが驚くのもわかる。

 だって、ウェルバーはセドリックの婚約者である私や、私の実家であるルスキューレ公爵家を目の敵にしていたわけだし。


 セドリックもウェルバーもまだ幼いことから、本格的な王位継承争いは始まってなかったから、表立って敵対してるわけじゃないけど……

 むろん、ウェルバーとルスキューレ公爵家の関係性はよくはない。


 まぁ、だからといって呪いに蝕まれたウェルバー達を見殺しにするほど、ルスキューレ公爵家は落ちぶれてないんだけども!

 とにかく! 助けてあげたんだから、少しは感謝してほしい。

 そして、私に対するしょうもない嫌がらせをやめてほしい!!


「……アルト殿、そしてルスキューレ公爵家の皆様。

 僕とミネルバを助けてくれたこと、感謝します」


 おぉ〜! あのウェルバーが素直に頭を下げた!!


「ミネルバも彼らにお礼を」


「そうですか……私達は……私は助かってしまったのね。

 ふふふ! あ〜あ、せっかくいい計画だと思ったのに……どうやらお父様は失敗してしまったみたいですわね」


「ミネルバ?」


「やっぱり、ウェルバー殿下と貴女を呪ったのは貴女自身ね?」


「「「「「「っ!?」」」」」」

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