第143話 解呪

「ここだ」


 皇帝陛下の案内で王城内を移動すること10数分。

 案内されたのは、私も仮とはいえ第一王子であるセドリックの婚約者として自室を与えられてる、王族のプライベートエリアにある一室だけど……


「これは……」


 アルトお兄様の転移魔法で王城に来たときから感じてたけど……扉越しでもビシビシ伝わってくる、この禍々しい魔力の波動。


「アルトお兄様」


「あぁ、これは厄介だね」


 私と同じ結論に至ったアルトお兄様な顔をしかめる。

 まぁ私も、お父様やお母様、エレンお兄様も同じ結論に至った全員がだけども。

 表情に変化がないのは皇帝陛下と帝国守護の五姫、そしてマリア先生という伝説の英雄組のみ!


 マリア先生達がこの事実に辿り着いてないはずがないだろうし……この状況下でも一切取り乱すことなく、堂々としたこの態度!!

 さすがは英雄と呼ばれる方々だわっ!!


 けど……本当にこれは厄介なことになった。

 まだ部屋に入ってもいないのに、扉を隔てたここでも感じ取れる禍々しく、強力なこの魔力。

 これが意味することは……


「アルト殿っ!!」


「っ!」


 び、びっくりしたぁ〜。

 国王陛下……不安なのはわかりますけど、いきなり大声を出さないでくださいっ!!

 びっくりしちゃうじゃないですか!


「厄介とはどう言うことだ!?」


「ま、まさか、もう手遅れなの?」


「お2人とも、落ち着いてください。

 確かに想像よりも強力な呪いではありますが、それ自体は大した問題ではありません」


 そう! さっきマリア先生もいってたように、呪い自体は大した問題ではない。

 だってこの場にはアルトお兄様やファナに加えて、マリア先生と皇帝陛下達もいるわけだし。


「とは言え、ウェルバー殿下とエルヤード公爵令嬢が危険な状態にある事は事実です。

 この話は後にして、とにかく今は早急に呪いの解呪を行いましょう」


「あ、あぁそうだな。

 頼んだぞ、アルト殿」


 アルトお兄様の言葉を受けて、国王陛下が扉を開いた瞬間……


「ぅっ……」


 な、なにこの魔力……気持ち悪い。

 ドロドロとした憎悪や殺意、ありとあらゆる負の感情を詰め込んだような。

 禍々しくも圧倒的な魔力だったナルダバートとも、これまで出会った誰とも違う……異質な魔力。


「ソフィーちゃん、落ち着いて」


「っ! マ、マリア先生」


 わ、私としたことが、この程度で動揺してしまうなんて……!

 私はいずれ最強に当たる者! こんな呪いなんてっ!!


「別に強がる必要はないよ」


「べ、別に強がってなんて……」


「あはは、さっきから震えてるのに?」


「うぅ〜!」


 皇帝陛下のイジワルっ!!


「ふふっ、まぁソフィーちゃんは魔力との親和性が高いから仕方ないわよ。

 私と手を繋いでおきましょうか?」


「……お願いします」


 恥ずかしいけど! それはもう、めちゃくちゃ恥ずかしいけどっ!!

 こればっかりは仕方ない。


「あぁ! マリア様に甘えているソフィーが尊いっ!!」


「見ましたか! 恥ずかしがりながらも、しっかりと手を繋ぐソフィーの姿をっ!!」


 お父様、エレンお兄様……


「貴方達」


「「っ!」」


 おぉ〜、シリアスな空気を読まずに残念モードに突入してたお父様とエレンお兄様が、お母様の言葉を受けてビクッ! ってなった!!


「少し煩いわよ」


「「……すみません」」


 お母様、さすがです!!


「全く、父上達は……それでは、気を取り直して。

 とりあえず、今からウェルバー殿下とエルヤード公爵令嬢の解呪を始めます」



 パチンッ!!



 アルトお兄様が指を鳴らし……


「「「「っ!?」」」」


 国王陛下達が目を見開いて息を呑む。

 まぁ、それぞれベッドに寝かされているウェルバーとミネルバの全身に雁字搦めに纏わりついて、覆い尽くすほどのドス黒い鎖がいきなり現れたらそんな反応になるのも頷ける。


「予想はしてたが……流石にこれは、本腰を入れる必要があるか」


 スッと、アルトお兄様が手を翳すと……ポンっ! っと、アルトお兄様の目の前に、背の丈程もある杖が現れる!!

 そしてっ!


「術式展開」


 手に取った杖を床に打ち付けた瞬間! 一瞬で地面に展開された巨大な魔法陣が光輝き……



 バキッ!



 アルトお兄様の解呪魔法によって可視化された、ウェルバーとミネルバに纏わりついていた鎖が……2人を蝕んでいた呪いが砕け散った。

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