第140話 呆気ない

「ソ、ソフィア嬢? いったい何を言って……」


「そ、そうだぞ。

 国を出るなどと……」


「冗談……よね?」


 おぉ〜、セドリックも国王陛下もフローラ様も。

 ガイルをはじめとしたセドリックや両陛下を護衛していた近衛騎士達も……


「なん、だと……?」


 そして! エルヤード公爵に彼が引き連れてきた騎士達も!!

 全員が驚いて、愕然として! みんな、面白いくらいに同じ顔になってるわ!!


「ふふっ」


 まぁ、確かに蝶よ花よと育てられたはずの貴族令嬢が、家族と縁を切って国を出るなんて無謀もいいところ。

 みんなが驚くのも当然だけど……私はそこらの貴族令嬢とは一味違うっ!!


 これでも、現役のAランク冒険者なのだ。

 家族と縁を切るのはイヤだけど……たとえ国を出たとしても、私は1人でも生きていける!


「ソフィア嬢!」


「私は本気です」


「ッ!!」


 ショックを受けてるセドリックには悪いけど……興味もない権力争いに巻き込まれるだけでなく、ありもしない罪を着せられるくらいなら私はこの国を出る!!

 既にオルガマギア魔法学園っていう国外で暮らす基盤もあるし。


「そうか……ソフィーがそう言うのなら仕方ないね。

 じゃあ、私も公爵位は国に返還して国を出るとしよう」


「あら、そこは私達でしょう?」


「そうですよ、父上!

 ソフィーの2人っきりで生活なんて……そんな羨ましい事が許されると思っているのですか!?」


「何自分だけ良い思いをしようとしてるんですか!

 当然、俺達も一緒に国を出ますからね!!」


 アルトお兄様もエレンお兄様も! シリアスな場面なんですからもうちょっと空気を読んでください!!


「ふふっ、当然私達も連れて行ってくれるのですよね?」


「まぁ、無理矢理にでも着いて行きますけど」


 フィアナお姉様にディアお姉様まで……おかしい。

 私がいうのもなんだけど、国を出るってもっと重大な決定なはずなのに……


「爵、爵位を国へ返還して娘と共に国を出る?

 何を言っているのだ……意味がわからん!!」


 おぉ〜、エルヤード公爵が愕然とした表情で混乱していらっしゃる。

 さすがにこれはエルヤード公爵にとっても想定外の展開らしい。


「ソフィア嬢が……ははっ、ルスキューレ公爵家が国を出る?」


「ま、まぁ落ち着きなさい。

 そう簡単に爵位を返還して一家揃って国を出るなどと……!」


「そ、そうよ!

 ヴェルトもユリアナも落ち着いて!!」


 セドリックも突然の展開に混乱してるようだし。

 国王陛下とフローラ様はルスキューレ公爵家が国を出る覚悟があるって知って焦ってる!

 まぁ、でも両陛下が焦るのも仕方ない。


 なにせ……ルスキューレ公爵家は国内外で手広く事業を展開してることもあって、イストワール王国にとってルスキューレ公爵家は経済、流通、そして外交の要!

 それに加えて国防面でも重要な位置にいるわけだし。


「ヴェルト、ソフィー達と一緒にこの国を出るなら私の国に来る気はない?」


「「っ!?」」


「伯爵位以上、侯爵位もしくは今と同じ公爵の位を約束するよ?」


 おぉう、両陛下達の目の前で堂々と行われてる皇帝陛下の勧誘に両陛下が驚愕に目を見開いて息を飲んでるけど……ふふっ、帝国に移住か〜。


「あら、抜け駆けは許さないわよ。

 アルトは十四賢者の1人だし、変態ロリコン皇帝の国じゃなくて魔導学園都市王国に来た方がいいわ」


「っ! マリア先生!!

 お久しぶりです」


「ふふっ、久しぶりね、ソフィーちゃん」


「昨日はアルトお兄様と新人戦を観に行ったのに、ご挨拶できなくてごめんなさい……ソフィアちゃんは元気ですか?」


「えぇ、あっちのソフィーちゃんも元気よ。

 昨日はソフィーちゃんと直接会えなくて残念がっていたわ」


 ふふふっ、マリア先生さすがですね!

 一瞬で私の意図を読んで、私の思惑に乗ってくれるとは!!


「そうですか……また一緒にお茶をしましょうって伝えてください」


「ふふっ、わかったわ。

 けど……魔導学園都市王国に来て直接伝えた方が喜ぶと思うわよ?」


「確かに……」


 むふふっ! 我ながら素晴らしい演技だわっ!!


「何だこれは……貴様達はいったい、何の話をしているのだ……?」


 なんの話といわれましても……


「移住の話ですが?」


「巫山戯るなっ!!」


「別にふざけてなどいません」


 そもそも! 自分に従わなければこの国で生きていけなくしてやるぞ! って脅してきたのはそっちじゃんか!!


「まぁ、キミ程度じゃあ、どれだけ策を弄しようとルスキューレ公爵家には勝てないって事だよ」


「っ〜! 先程から黙って聞いておれば、誰だ貴様はっ!!

 私が誰なのか知っての狼藉かっ!?」


 お前もかっ!!


「今すぐこの愚者どもを引っ捕らえろっ!!」


「って、彼は言ってるけど……イストワール王、これはイストワール王国の総意ととってもいいのかな?」


「と、とんでもありません!

 ソフィア嬢の言う通り、エルヤード公は疲れているようです」


「へ、陛下!? 何をっ……」


「エルヤード公をすぐに城の客室に案内しろ」


「「「「はっ!」」」」


「な!? 何をする!

 放せ! 私が誰なのか分かってあるのかっ!?」


 喚き散らすエルヤード公爵が国王陛下の命令を受けた近衛騎士に引きずられて行っちゃった……あまりにも呆気ない。

 というか、今回の騒動でなにやら企んでたらしい黒幕にしては呆気なさすぎじゃ……


「う〜ん」


「まぁ、自身が全てを操っている黒幕だと思い込んでるだけの人形ならこんなモノだよね」


「えっ?」


 皇帝陛下、今なんと?

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