第139話 屈すると思うなよっ!!

「……は?」


 むふふっ! 驚いてる、驚いてる!!

 まぁ、エルヤード公爵としては今の流れで私が拒絶するとは思わなかったんだろうけど……ぷぷっ! 間抜けな顔だわっ!!


「ふふ」


 ふふ〜んっ! どうよ? この堂々とした態度っ!!

 公爵令嬢としての淑女教育で身につけ、王子妃教育をもってして完璧と言わしめた貴族然とした感情を見せない作った淑女の微笑みアルカイックスマイルを浮かべて……


 この状況下でもまったく動揺することなく!

 ソファーに腰掛けて、何事もなかったかのように優雅にお茶をしながら!

 エルヤード公爵のことなんて些事と言わんばかりの態度でハッキリと拒否を突きつける!!


 にゅふふっ! 我ながら私もさっきの皇帝陛下に負けてないわ!!

 優雅で、美しく、それでいてカッコいい。

 これぞ未来の悪役令嬢たる私に相応しい態度!!


「今なんと?」


「あら、聞こえていらっしゃらなかったのですか?

 先程も私がミネルバ様の暗殺を企てたなどと荒唐無稽なことを言っておられましたし……おかわいそうに、エルヤード公爵様はお疲れなのですね」


 ふっふ〜んっ! どうだ、このキレッキレな嫌味の数々っ!!

 すごい! すごい! さすがは私! さっきから悪役令嬢ムーブが止まらないっ!!


「こ、この小娘がっ!!」


 あらら、この程度の煽りで顔を怒りに染め上げて声を荒げるとは……まったく、エルヤード公爵はポーカーフェイスがなってませんね。


 エルヤード公爵……その程度にも関わらず、この私を差し置き悪役を演じようだなんて100年早いっ!

 悪役たる者! いつ何時でも、優雅で、美しく、カッコよくなければならないのだよ!!


「其方はこの状況がわかっているのか?」


 まぁ、確かに普通のご令嬢なら騎士を引き連れてやってきて、出頭するように言われたら怖がるだろうけど…… この私がっ!

 魔王にすら立ち向かったこの私が、数名の騎士を引き連れて乗り込んできた程度で臆するとでも思ったかっ!!


「これは貴族院にて正式に可決された其方への出頭命令なのだぞ!!」


 貴族院ね。

 まぁ、騎士を引き連れて乗り込んでくるくらいなんだし、そうなんだろうけど……


「何だと? 私はそのような事は聞いていないぞ。

 どう言うつもりだ? エルヤード公」


 確かに貴族院は大きな権力を持っている部署ではあるけど、高位貴族の……それも、第一王子の婚約者である私の捕縛を国王陛下の許可なしに決めることはできないはず。


「陛下、これは今朝行われた貴族院の定例議会で発覚し、特別に定例会議出席者のみで可決されたのです。

 第二王子殿下の婚約者である我が娘、準王族への暗殺未遂という緊急事態故、陛下へのご報告が遅れてしまい申し訳ございません」


「っ……」


「そんな!」


「ソフィア嬢……」


 なるほど〜、確かに王族に命の危険がある場合に限って貴族院は国王陛下の許可がなくても過半数の賛成があれば高位貴族を捕縛する決定を下せる。


 そして、貴族院の議長であり。

 貴族院の殆どを自身が率いる第二王子派閥の者で占めているエルヤード公爵にとってこの程度の不正は簡単ってわけか。


「ふふっ」


 姑息な手段ではあるけど、結構やるじゃん!


「何がおかしい……?」


 おっと、私としたことがついつい笑っちゃったわ。


「いえ、申し訳ありません。

 しかし、たとえそれが貴族院によって正式に可決されたものであろうと私の答えは変わりません。

 謹んでお断りさせていただきます」


「ッ! 貴様、自身が何を言っているのか?

 貴様の言っている事は、貴族院の決定に刃向かうという事!!

 貴族院に刃向かって、この国で生きていけるとでも思っているのかっ!?」


 あっ取り繕えずに私の呼び方が、其方から貴様になっちゃった。

 ふっ、この程度で取り乱すなんてまだまだだわ!


「わかったら無駄な抵抗はせずに、大人しく我々と同行しなさ……」


「別に構いません」


「は?」


「冤罪に屈するくらいならば、私は迷惑をかけしないようにルスキューレ公爵家との縁を切り国を出ます」


「「「「「「ッ!?」」」」」」


 この5年間。

 将来起こりうるかもしれないセドリックによる断罪に……権力による冤罪に抗うために力をつけてきたのだ!

 この程度で私が屈すると思うなよっ!!

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