第132話 決断

「ふ〜む」


 どうしてこんなことになったんだろ?


「あぁ〜、ソフィー」


『ふふふ、可愛いわ〜』


「えぇ、本当に!」


 ……ギュッと私を抱きしめるアルトお兄様。

 なにやらカメラみたいな物を持って私の周囲をパタパタと猫ちゃんサイズの姿で飛ぶルミエ様。

 そんなルミエ様に相槌を打つファナ。


「あの、アルトお兄様?」


「な〜に?」


 アルトお兄様に抱きしめられ、お兄様の膝の上に座らされてからもう30分間近く。

 いい加減、正面のソファーに座ってるルーの呆れたようなジトォ〜ってした視線も痛くなってきたし……


「そろそろ降ろしてほしいのです……」


 なにより! さっきの話の続きがしたい!!


「はい、あ〜ん」


「んっ!」


 むふっ! やっぱりファナが焼いてくれたクッキーは美味しい!!


「……」


「はっ!」


 つ、つい口元に持ってこられたクッキーを食べちゃった!

 うぅっ、ルーの視線が冷たくて痛いっ!!


「はぁ……ご主人様、何を餌付けされてるんですか」


「っ!?」


 え、餌付けっ!?

 ルーちゃんが……ルーちゃんがこの1ヶ月間で冷たくなってるっ!!


「ん?」


 いや待てよ……よくよく考えてみればそんなこともない気がする。

 1ヶ月前もルーって結構辛辣だったと思うし、ということはルーが冷たくなってるのは私の勘違い?


「じぃ〜」


「? 何か?」


「ルーが可愛いな〜って」


「ッ!?」


 デレたっ! ルーがデレたっ!!

 ちょっと恥ずかしそうにプイッて視線を逸らすこの仕草!!


「な、何をふざけているんですか!」


 ん〜もう! ちょっとツンツンしてるけど、やっぱり私のルーちゃんは可愛いっ!!

 この不器用な無表情ツンデレめっ!!


「それよりも、いい加減話を進めてください」


 っと、そうだった。

 アルトお兄様がいう3つの問題のうち最後のは……まぁいいとして、本当に問題なのは1つ目と2つ目だけど。


 1つ目の私が冒険者ソフィーであり!

 オルガマギア魔法学園の新入生代表かつ昨日には新人王となったソフィアだって疑惑が浮上していること。

 まぁ、オルガマギア魔法学園の新人戦はそれこそ世界中が注目している場所だし。


 これは、アルトお兄様と実況の人との会話や新人戦を通して、オルガマギア魔法学園の新人戦優勝者ソフィアは冒険者ソフィーだってことがある程度は知れ渡っただろうし。

 昨日アルトお兄様とルーが試合会場に来てくれたおかげで多少は払拭されるはず。


 なにせ確かな実力を示し! 冒険者ソフィーと同一人物だと思われる新人戦の優勝者、新人王ソフィアとソフィア・ルスキューレ公爵令嬢。

 この両名が同じ時間、同じ場所に居合わせてるわけだし。


「ふむ」


 となると、やっぱり一番問題なのは2つ目!

 問題その1の噂を発端に、セドリック王子とウェルバー王子による王位継承争いにまで発展しかけてるってこ。

 問題その1の噂は国王陛下の晩餐会なんてなくても徐々に沈静化するだろうけど……


「アルトお兄様、このまま何事もなく収束すると思いますか?」


「う〜ん、まずないだろうね」


 ですよね〜。

 今最も王太子の座に近いのはセドリックだし、第二王子であるウェルバーとその派閥はこの機会にセドリックを引き摺り下ろしたいはず。


 既にアルトお兄様が王位継承争いに発展しかねない状況だっていうくらいだし、私の件に関しても確固たる証拠がない限りそう簡単に引き下がるとは思えない。

 それに、エルヤード公爵の怪しい動きというのも気になる。


「う〜ん……仕方ないですね。

 ファナ、マリア先生に連絡を」


「かしこまりました」


 学園に入学して1ヶ月。

 これまでは新人戦に備えて、通常の選択授業じゃなくてクラス担任の先生による基礎指導のみで、明日からはついに通常の選択授業が始まるところだったんだけど……


『あら、その必要はないみたいよ』


「それで、どうするつもりなのかしら?」


「っ! マリア先生っ!!」


 いつの間に……本当にマリア先生は神出鬼没だわ〜って! そうじゃなくて!!


「こほん、一度イストワール王国に帰ることにします!」

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