第8章 王都動乱編

第131話 3つの問題

 突如勃発した大賢者たるマリア先生と、最年少で賢者の称号を手にした天才たるアルトお兄様の世紀の戦い!

 2日間の新人戦で白銀の天使としてその名を轟かせたソフィーちゃんこと! 私を巡る戦いにマリア先生が勝利を収めあと……


 本来なら複数の魔塔主から招待を受けた場合、生徒がどこの魔塔に所属するのか選択する権利があったらしく。

 準優勝のフィルも魔塔主全員から希望されてマリア先生の第一魔塔に所属することになったり、ミラさんがアルトお兄様の魔塔に所属することになったり!


 今まで新人戦で優勝者が魔塔に招待されることは数回あったらしいけど、複数名が……総じて5名が魔塔に招待される。

 しかも2人は全ての魔塔主から希望され、その片方は魔塔主同士で争奪戦が起こるという。


 最後の最後まで前代未聞づくしの新人戦も無事に終わって、翌日の今日は休日!!

 本当ならゆっくりと休んだり、フィルやミラさん達とお出かけしたりしたいところだけど……


「ふむ」


 窓から差し込む心地いい朝日に照らされながら優雅にソファーに腰掛け、孤高の悪役令嬢に相応しい美しくも威圧的な所作で足を組む!

 そして、ティーカップを傾けて一息……


「むふっ!」


 ドヤァ〜!

 これぞ! 優雅で大人な朝のひと時!!


「さて……」


 ティーカップをテーブルに戻して、スッと鋭い視線で前を見据える!


「アルトお兄様」


「ふふっ、どうしたの?」


 いやどうしたのじゃなくて!


「どうしてアルトお兄様がここにいるんですか!?

 しかもルーまで!!」


「お久しぶりです、ご主人様」


「お久しぶりですって……」


 いやまぁ、確かにこうして直接会うのは1ヶ月ぶりだけど……


「あぁっ! ソフィーっ!!」


「むへっ!?」


 ア、アルトお兄様っ!? いきなりどうし……


「会いたかったよ、ソフィー!

 1ヶ月ぶりのソフィーだから、しっかりとソフィーを補充しないと!!」


 私を補充ってなにっ!?

 というか! ルーをはじめ、お父様やお母様、お兄様達とは毎日寝る前に遠隔通信魔法で顔を合わせて話してるじゃんっ!!


「あ、あの……お兄様?」


「あぁ、そうだったね。

 ソフィーに会うのは1ヶ月ぶりだし、大人ぶってドヤ顔をしてるソフィーが可愛すぎてつい……」


「っ!?」


 ド、ドヤっ!?


「別にドヤ顔なんて」


「うんうん、そうだね〜」


「そ、そうなのです!!」


 私はいつも通りの優雅で大人な朝のひと時を過ごしてただけだし? 別にドヤ顔なんてしていないのだ!!


「そ、それよりも! どうしてアルトお兄様達がここに?」


 アルトお兄様が、それもイストワール王国で私の代わりを演じてくれてるルーも一緒にこっちに来るなんて聞いてない!!

 まぁ、アルトお兄様は第十五魔塔の魔塔主で十四賢者の1人だからここにいても全く不自然じゃないけども……


「それなんだけどね……実は今、向こうで大変な事が起こっていてね」


「た、大変な事?」


 そ、そういえば2日前はミラさん達との打ち上げでよ、酔っ払って寝落ちしちゃったし。

 昨日は色々とあって、主に精神的に疲れてたから連絡をとってなかったけど……


「い、いったいなにが……」


「問題は3つ。

 1つはルーが王都でソフィーの代わりを演じているにも関わらず、冒険者ソフィーと今年のオルガマギア魔法学園の新入生代表ソフィアは同一人物。

 そして、その正体がソフィーだと結構な噂になっている事」


「っ!」


 いずれは冒険者ソフィーは私だってばらすつもりだけど……今はまだそのときじゃない!

 この秘密は然るべきタイミングで使う私の手札の1つなのにっ!! 確かにそれは緊急事態だわ。


「まぁ、この噂自体は昨日の表彰式でソフィーとルーが同じ場所に居合わせた事で次第に収束すると思うから心配しないで」


 な、なるほど……だからアルトお兄様がルーを連れてこっちに来たってわけね。

 さすがはアルトお兄様! 手際がいい!!


「2つ目は、その噂を発端にバカ王子……こほん、セドリック王子とウェルバー王子が騒いでいてね。

 事態を収拾するためにソフィー……いや、ルスキューレ公爵家全員にするようにねじ込んから、ルスキューレ公爵家と冒険者ソフィーが国王主催の同じ晩餐会に招待された事」


「国王陛下の晩餐会、ですか?」


「渦中のソフィーと冒険者ソフィーを同じ晩餐会に招待して参加させる事で、今回の騒動の発端であるルスキューレ公爵令嬢が冒険者ソフィーだって噂を払拭しようって狙いだね」


 なるほど……


「しかし、最初は両王子とそれぞれの陣営による足の引っ張り合いだったんだけどね。

 次第にエスカレートしていって、今では下手をすれば王位継承争いにまで発展しかけない状況なんだ」


 おぉう、それはまたなんとも……


「果たしてこの噂が払拭されても騒動が落ち着くかどうか。

 しかも、裏でエルヤード公爵家が何やら怪しい動きも見せている……まったく、くだらない権力争いに巻き込まないでほしいよ」


「確かに……」


「ご主人様、つっこんでください。

 これは結構な大事なのですよ?」


「むっ」


 そんなこといわれても……


「はぁ、もういいです」


「っ!?」


 ル、ルーが! ルーちゃんが辛辣っ!!


「それで3つ目だけど……実はこれが一番深刻なんだ」


「えっ……」


 泥沼の血に塗れた王位継承争いにまで発展しかねない状況よりも深刻な問題……?


「そ、それはいったい……」


「それは……ソフィーがこの学園に入学するために旅に出てから今日までの1ヶ月以上もの間、一度もソフィーに会えていなかった事だよっ!!」


「……」

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