第82話 特異点

 ──ピチャっ



 カッコよくいい放ったのに、なぜか静まり返っちゃったけど……ナルダバートの頬から垂れた血が地面に滴り落ちる音が鳴り響く!

 むふっ、むふふふふ! いい、とてもいい! なんかこの状況はこの状況で私の琴線に触れるものがあるわ!!


「まさか、この私に傷を付けるとは……」


「ふふん! 私はいずれ最強に至る者!

 この程度は当然なのだ!!」


 ふはっはっはっ! 驚いたか、魔王ナルダバート!!

 確かにお前は強い、悔しいけど魔力量では完全に負けてるし多分今の私よりも強い。

 けど……私が本気になれば、魔王の一柱ヒトリと渡り合うこともできるのだよ!!


「その剣は……帝国の守護神。

 現人神と呼ばれる皇帝が使う神炎のつるぎですか」


「むっ」


 まさか一目で看破されてしまうとは。

 一見ただの真っ白な剣にしか見えないはずなのに……


「私に傷を負わせるだけでなく、皇帝の技すら使いこなす……クックック、流石は特異点たる愛子、と言ったところでしょうか。

 実に素晴らしい!」


「ふんっ」


 一瞬で何事もなかったかのように頬の傷を治癒しながら褒められても嬉しくない。


「さっきから特異点たる愛子ってなんのことですか?

 確かに私は謎の加護とルミエ様の加護、2つの加護を持ってる愛子ですけど……特異点? なんかじゃありません」


「おやおや、愛子である事をそう簡単に認めてしまってよろしいので?」


「むぅ、最初から知ってるくせに」


 嫌味か! 嫌味ですか!!

 というか、ナルダバートのこの口ぶりからすると……こいつは私が愛子だってことを国に隠してることを知っている?


 私が愛子だってことは、それを口実に国で保護しないといけないって建前でセドリックと婚約させられるのが嫌で内緒にしてるのに……まぁ、結局はセドリックと婚約しちゃってるんだけども。


 とにかく! それを知っているのはごく限られた人物のみ。

 にも関わらず、ナルダバートがその事実を知っているとなると……どうやってかは知らないけど、どこかから情報が漏れている?


 詳しくは知らないけどルスキューレ家の使用人はみんな、お父様達が厳選をしてるらしいし、ファナを筆頭に私の側にいるみんなはいわずもがな。

 使用人の誰が情報漏洩をしたとは考えにくいし……


「クックック、この私を前にして考え事ですか?」


「っ!?」


 ちょっと私の意識が逸れた隙を見逃さずに瞬時に肉迫して!

 確かに速い、けど対応できないほどじゃない!!



 バチッ!



 膨大な魔力を纏って振り下ろされるナルダバートの手刀。

 確かに直撃すれば致命傷になりかねないけど……手刀にそうように左足を軸に回転しながら避けつつ、上半身を捻って伸びたナルダバートの腕に向かって下から薙ぐように剣を振るう!

 そのまま、地面に手をついて……


「はっ!」


 ガラ空きのお腹を蹴り飛ばすっ!!


「ふむ、それは……雷属性の魔法を身に纏っている。

 いや全身に纏った魔力を雷属性に変質させていると言った方が適切ですか」


 結構本気で蹴り飛ばしたのに……斬りつけた腕も回復してるし、ダメージなしか。



 バチッ! バチ、バチッ!!



「魔闘法・纏。

 これが本気になった私の戦闘スタイルです!」


 まっ、もっとも! まだまだ上はあるけど!!


「雷属性の魔力を纏う事によって、自身の身体能力を底上げしているわけですか……クックック、面白い。

 さぁ、せいぜい私を楽しませてくださいよ? 特異点たる愛子よ」


「むっ! だから特異点ってなんなんですかっ!」


「あぁ、そうでしたね」


「っ!!」


 簡単に避けられたっ!?


「特異点とはあの方の加護を、因子を持つ者。

 ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢、特異点たる貴女は私の……計画に必要不可欠な存在なのですよ」

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