第64話 魔王の要求

「あのぉ……お母様?

 さすがにこの状況でその話は……私も魔王のことが気になりますし」


「あら、ソフィーちゃんは魔王の事なんかが気になるの?」


 そりゃ気にもなりますよ!

 だって、イストワール王国の王都ノリアナの上空に魔王ナルダバートによって巨大な魔法陣が展開されてるんですよっ!?

 これで魔王の動向が気にならないハズがない。



『脆弱なる人間諸君! おめでとうございます!!

 お前達の国はこれより私のモノとなる事が決定しました』



 ほら! 魔王ナルダバートが物騒なことをいってるし!!


「まぁ、ソフィーちゃんが気になるって言うのなら仕方ないわね。

 けど後でソフィーちゃんの話をちゃんと聞かせてね?」


「わかりました」


 なんとかお母様を納得させることができてよかった。

 けど……私が心配をかけちゃったせいとはいえ、あのお母様が魔王が動きを見せるなんて一大事を些事のように扱って私のことを優先させようとするとは……



『人間共の王に告げます。

 多くの人の血を流したくなければ王座を明け渡しなさい』



「ふむ」


 さっきもイストワール王国は今から自分のモノだ的なことをいってたし。

 イストワール王国の王座を求めるってことは、魔王ナルダバートの目的はこの国ってことなのかな?



『とは言ったものの、お前達は即断できないのでしょう?

 まったく自身の命が掛かっているというのに実に愚かな事ですが……私は優しいですからね。

 そんな愚かな人間共に3日の猶予を与えましょう。

 この3日で必要な手続きを全て終わらせて、速やかに国を明け渡しなさい』



 でも、なんで魔王ナルダバートがこの国を?

 国を持たない魔王が自身の国を手に入れようとしてるっていうのなら納得できるけど……


 魔王ナルダバートは既に自身が治める国を持っているから、わざわざこの国を狙う必要はないし。

 3日の猶予を与える意味もわからない。

 魔王ナルダバートはなにがしたいんだろ? う〜ん、謎だわ。



『もし、私に抗うというのであれば……クックック、その時は我が不死の軍勢がお前達の国を地獄に変える事になるでしょう!!』



 魔王ナルダバートの目的は不明だけど、これは魔王によるイストワール王国への宣戦布告!

 魔王ナルダバートが動いたって話は聞いてたけど……まさかこんなことになるとは。

 魔王が自分から戦争を始めるなんて、それこそ約400年前にあった大戦争の時以来の大事件じゃんっ!!


 けど……魔王ナルダバートの話を聞いてると、既に自分が勝ったつもりになってるみたいじゃん?

 いやまぁ宣戦布告なんてこんなモノかもしれないけど。


「ふんっ」


 確かに魔王の力は絶大だ。

 かつての大戦争でたった一柱の魔王に世界の半分を支配されたことからもわかる通り、魔王は一国を容易く滅ぼすほどの力を持っている。


 危険度Sランク、天災級に指定されている力は伊達じゃない。

 それこそ超大国である帝国やレフィア神聖王国とすら単騎で渡り合うといわれる魔王からすれば、中堅国家に過ぎないイストワール王国なんて取るに足らない存在だろう。


 だがしかしっ!!

 この国には世界に10人程しかいないSランク冒険者たるエレンお兄様や、賢者であるアルトお兄様……そして! この私もいるのだ!!

 この国を簡単に堕とせると思うなよっ!!



『では最後に、救済処置を伝えておきましょう。

 第一王子セドリックの婚約者であるソフィア・ルスキューレを私への生贄に捧げるというのであれば、私はお前達の国から手を引きましょう!』



「……へっ?」


 今なんて??



『素直に国を明け渡すのか、無駄な足掻きをして抗うのか……それとも、なんの罪もない少女を犠牲に自らの安寧を得るのか!!

 クックック、せいぜい賢明な判断を下す事を願って……』



 突如、魔王ナルダバートの言葉を遮って、巨大な魔法陣を真紅の炎が包み込み……


「ソフィーちゃんを、生贄に捧げろですって?」



『な、なんだこれは!?』



「私達の……ルスキューレ公爵家の逆鱗に触れた事を後悔させてあげるわ」


 王都の上空を覆い尽くしていた巨大な魔法陣が砕け散った。

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