第63話 魔王ナルダバート

「あれは……」


 公爵たるお父様が唖然と呟いちゃうのもわかる。

 だって、お父様より魔法に精通してる私もアレがなんなのかわからないし。


 多分それはSランク冒険者のエレンお兄様、そして賢者であるアルトお兄様ですら一緒だと思う。

 ただ1つわかるのは……あの巨大な魔法陣からすさまじい魔力を、強大な気配をビシビシ感じるって事実のみ。


「むぅ……」


 前世の記憶の中にもあんなのはないんだけど。

 確かに前世の記憶にある乙女ゲームの中でも魔王はしっかりと登場する。

 というか、そもそも前半の恋愛部分のラスボスである私に対して魔王は後半の……本当のラスボスなわけだし。


 けどあの乙女ゲームは主人公である15歳の聖女が異世界から召喚されるところから始まる。

 そして同じく15歳のセドリック第一王子殿下が通っている、満12歳から16歳までの貴族の子息令嬢達が5年間通うイストワール王立学園に編入することになる。


 とまぁ、まだ乙女ゲームの開始から5年前の時間軸である現在のことが前世の記憶にないことは当然なんだけど……

 ゲーム中には過去の事件とかは色々と出でくるし、こんな大事件ならゲーム中に出てきてもいいはずなのに。


「ふむ」


 というか! そもそも、前世の記憶にある乙女ゲームには私やセドリックが登場したりと、私達が生きているこの世界と類似してることは間違いないけど……色々と違う点も多い。


 魔王にしたって乙女ゲームでは魔王は一柱ヒトリしか存在しないのに対して、実際には八柱の魔王が存在してるし。

 昨日行ったダンジョン・魔法神の休息所はもちろん、七大迷宮を始めとする迷宮ダンジョンなんて乙女ゲームには存在しない。


「あっ」


 そういえば、魔法神様はその名前すら登場しない。


「ソフィー、どうかしたの?」


「いえ……ただ、アレはなんなんだろうって」


 ここにはガイルもいるし、正直に話すわけにはいかないけど……


「なるほど、アレの事はソフィーも知らないみたいだね」


 さすがは私のアルトお兄様!

 皆までいわずとも私のいいたいことをしっかりと察してくれる!!


「まぁ、ソフィーは安心して中に入ってな」


「えっ、でも……」


「ふふ」


「わっ!」


「ほらソフィーちゃん。

 ここはエレン達、殿方に任せて私達はお家に入っていましょう。

 さぁ、さっきの続きを聞かせてね?」


 なんだ、お母様か〜。

 いきなりでビックリしたじゃないですか……ん? あれ、ちょっと待って!


「……」


「……」


 めっちゃガイルに見られてるんですけどっ!!


「お、お母様……」


「ふふふ、どうしたの?」


 どうしたのじゃなくて! 恥ずかしいから下ろしてぇ〜!!



『クックック、初めまして脆弱なる人間共』



「むっ」


 魔法陣が起動して若い男性の声が!



『私の名はナルダバート。

 貴様らが不死の呪王と恐れる魔王が一柱ヒトリです』



 ふむふむ、となるとあのバカでかい魔法陣はやっぱり件の魔王ナルダバートの仕業ってことね。

 まぁ尤も、この声の主が本当に魔王ナルダバート本人かはわからないけど。


「それで、湖ではどんな遊びをしたの?」


 えっ? お母様、さすがに今その話は……ほら、あんなバカでかくて目立つ魔法陣を使って魔王が話してるんだし。

 普通はもっとこう……


「ひぃっ!」


 そう! 腰が抜けて涙目になってるガイルみたいな反応をするところですよ!!

 いやまぁ、やっぱり別にここまで反応しなくていいと思うけど……もうちょっと魔王に興味を持ってもいいと思うのですが……うん、さすがはお母様だわ。

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