第62話 緊急事態
「はぁ……」
「これはこれは、ソフィア様。
いかがなさいましたか?」
っと、私としたことが、ついついため息をついちゃったわ。
しかし……なんであの紳士なバリアード・アレス伯爵の子供なのに、こんなヤツに成長したんだろ?
「いえ」
いかがなさいましたかって、一家の団欒の場にノックすることすらなく扉を開け放って勝手に押し入って来てるくせになにをいけしゃあしゃあと!
本当に主従揃って似た者同士でムカつくっ!!
「それで、アレス伯爵子息様はなにをなさっているのでしょうか?」
「えっ……」
ふふん! 威張り散らして、乱暴に部屋の中に入って来た程度でこの私が萎縮するとでも思ったか!!
まぁ、確かにか弱いそこいらのご令嬢ならビビっちゃうだろうけど……
「聞こえませんでしたか?
なにをしているのか、と聞いているのです」
「で、ですから国王陛下の王命を……」
「それで?」
「それで……」
ふふん! 偉そうなだけで実力もないお坊ちゃんめ!!
お前が近衛騎士団に所属できているのは父親が王国騎士団の副団長ってことと、同い年だってことで第一王子殿下の幼い頃からの遊び相手だったから!!
いわゆる幼馴染たるお前を第一王子の側近にするついでに見栄えの良い地位を与えられたに過ぎないのだ!!
それなのに調子に乗って偉そうにしてるんじゃないわよっ!!
「ふふふ」
せっかく、せっかくお母様に甘やかされて。
頭を撫でてもらいながら、私の冒険譚を気分良く話してたのに……このクソガキめ! 許すまじっ!!
自身のやらかした罪の重さを思い知らせて、泣かせてやる!!
「貴方が国王陛下の王命で来た、そんなことはわかっています。
貴方自身がそう叫びながら押し入って来たのですから」
「は?」
「私が聞いているのはそのようなことではありません」
「な、なにを……」
「家主の許可も、ましてやノックすらせずにその扉を開け放った。
貴方のとられた行動は貴族としての常識を……最低限の礼儀を欠いている無礼極まりないもの。
ルスキューレ公爵家に無礼を働いてこの部屋に、この屋敷に押し入って来たということの意味がわからないのですか?」
ここポイントっ! ここで軽く睨んで威圧!!
「っ!」
むふふ! ビビってる、ビビってる!!
「たとえ貴方が王国騎士団副団長であるアレス伯爵の御子息だろうと、第一王子殿下の側近だろうと関係ありません。
貴方はルスキューレ公爵家に無礼を働いた。
にも関わらず、貴方はなにをやっているのかと聞いているのです」
「っ……!!」
「まぁ、いいでしょう。
これがルスキューレ公爵家に対する王家の意志ということなのでしょうね」
「そ、そんなことはっ!」
「どうぞお引き取りを。
先程お父様達もおっしゃっていましたが……王家がルスキューレ公爵家のことを余程軽く見ていることが良くわかりましたと、国王陛下にお伝えください」
ふはっはっはっ! バカめっ!!
ここまで話が大きく飛躍するとは考えてなかったでしょう?
第一王子の側近に選ばれたことに加えて最年少の近衛騎士になって、さらには国王陛下からの王命の伝令って重要任務を任されて調子に乗ってたんだろうけど……
涙目になってやんの!!
まぁ、王家と公爵家の不仲となればただでさえ一大事。
しかも魔王の一柱が動いてるって状況なのに、まさしく国を揺るがしかねない事態といえる。
まったく、主人に似てすぐに調子に乗るからこういうことになるのだ!
むふふ! せいぜい焦るがいいわ!!
さてと、おバカな近衛騎士は放っておいて説明の続きを……
『ん? これは……』
「ルミエ様?」
急にどうし……
「「「ッ!?」」」
この感じは……
「ソフィー? お前達、何があった?」
「ソフィーちゃん? どうしたの?」
この強大は気配は……!!
「た、大変ですっ!
皆様、すぐに空をっ!!」
駆け込んで来たルスキューレ騎士団の騎士の言葉を受けて、お母様のお膝の上から飛び降りて即座にお庭に出て……
「これは……」
私のあとを追って来たお父様がポツリと……空を覆う巨大な魔法陣を見上げて唖然と呟いた。
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