第65話 相手にとって不足なし!!

「お母様……」


 魔王ナルダバートが展開していた王都上空を覆い尽くすほどに巨大な魔法陣を燃やし尽くして砕くなんて……


「カッコいいですっ!!」


 鳥肌が立って、ビビっとシビれました!

 もうギュッとしちゃいます!!


「ふふふ、そうかしら?」


「そうなのです!!」


 私が男の子なら思わずお母様に結婚を申し込んじゃうほどにカッコよかった!

 さすがはお母様! さすがは我らがルスキューレ公爵家の真の支配者!!


「バルト、すぐに騎士団を招集する!」


 おぉ〜! いつもは残念なときが多いお父様が公爵としての威厳たっぷりで……


「はっ!」


「っ!?」


 お父様の命を受けたバルトの姿が掻き消えたっ!?

 なに今の? バルトが足元に……自分の影に吸い込まれるようにして消えちゃったんだけど……


「ふふ、驚いた?

 ああ見えてバルトは〝死神〟と恐れられた元凄腕の暗殺者なのよ」


「へぇ〜」


 執事長のバルトが元凄腕の暗殺者。

 いつも物腰が柔らかくて、優しくて、いかにも初老の好々爺って感じなのに意外だわ。


「し、死神っ!?」


 ガイルめ……いきなり大声で叫ばないでほしいんだけど。

 ちょっとビックリしちゃったじゃんか!


「いや、そんな事より! 貴女はご自分が何をしたのかわかっているのですかっ!?」


 むっ、お母様に対して無礼な……いやまぁ、不本意ながら私の婚約者である第一王子のセドリックを始め、その側近であるガイル達が無礼なのは今に始まったことじゃないけど。


「魔王の要求に従えば戦争を回避できたのに、あの巨大な魔法陣を破壊するなんて……!

 これは魔王の要求を拒否して、魔王ナルダバートとの戦争の火蓋を切ったという事ですよっ!?」


「では、貴方は魔王の要求をのんでソフィーちゃんを差し出すべきだったと?」


「っ! そ、それは……」


「これが王国騎士団副団長にして、次期団長と名高いバリアード・アレス伯爵のご子息とは……騎士ならば国民の命を第一に考えるのは当然です」


「そ、その通りです!

 ですから僕は、私は!!」


「しかし、貴方は普通の騎士ではなく近衛騎士。

 王族やそれに準ずる存在を守護する事が貴方達の使命です。

 それにも関わらず第一王子殿下の婚約者であるソフィーちゃんを守ろうとする素振りも見せず、魔王への生贄に捧げようなどと言語道断」


「っ!!」


「確かに王侯貴族の身分に生まれたのであれば、有事の際にはその身を盾にして多くの人々を守らなければなりません。

 それが王侯貴族として多くの特権を有し、国民の税で裕福な生活を送れている私達の責務であり、存在意義の1つです」


 その通り!

 だから私も今回の魔王ナルダバートとの戦いには最前線で参戦する所存っ!!


「ですが……たとえ貴族だろうと、王族の婚約者だろうと、ソフィーちゃんもイストワール王国の立派な国民であるという事を貴方は理解しているのですか?」


「っ……」


「騎士ならばその命をかけて民を守る気概を見せなさい!

 その気概を見せる事もなく、あまつさえソフィーちゃんを生贄にする事で危機から逃げようとした貴方は騎士でも、近衛騎士でも、ましてや貴族でもありません。

 ただの臆病者です」


 カ、カッコよすぎですっ!!


「国の危機に命を賭す覚悟もない臆病者は戦場にいても邪魔になり、仲間の足を引っ張るだけです。

 帰りなさい」


「……」


 ふふん! どうだガイル、見たかっ!!

 これがルスキューレ公爵家の頂点に君臨する我らがお母様なのだっ!!


「さぁ、ソフィーちゃんは危ないからお家に入っていましょうね」


「いえ! 私もお兄様達と一緒に戦います!!」


 お母様がいっていた貴族としての責務ってのもあるけど。

 それ以前になぜか魔王ナルダバートは私のことをご指名みたいだし……そもそも私は2日前からは冒険者でもあるのだ!

 魔王襲来なんて緊急事態にAランク、高位冒険者の1人である私が隠れているわけにはいかないっ!!


「ソフィーちゃん……」


「大丈夫です」


 またまたお母様達に心配をかけちゃうのは申し訳ないけど……


「ふふっ」


 約400年ぶりの魔王の侵攻。

 いずれ最強に至る私のことを国中に、世界に知らしめるには絶好の機会っ!!


「八魔王が一柱ヒトリ

 不死の呪王、魔王ナルダバート」


 なんで私のことを名指しで狙ってるのかは知らないけど……面白い!


「相手にとって不足なし!!」

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