第60話 ルスキューレ家クオリティー

「お母様、今なんて……?」


「あら、ソフィーちゃん聞いてなかったの?

 うふふ、仕方ないわね、昨日王家から魔王ナルダバートが動いたって連絡があったのよ」


 聞き間違いじゃなかった!

 思わずさっき内心で思ったことと同じセリフを繰り返しちゃったけど……魔王の一角が動いたなんて一大事! 緊急事態じゃないですかっ!!


 それなのに、魔王が動いたことを些事って……私の活躍を聞く方が優先って……!

 いつもは残念なお父様達をお母様が宥めて制御してるのに、今日はお父様の方がまともなことをいってるっ!?


「しかも、丁度ソフィーちゃんが緊急依頼を受けてダンジョンに向かったと連絡を受けた直後。

 アルトとエレンがダンジョンに向かうために家を出ようとした瞬間によ?」


 なるほど……自分でいうのもなんだけど、私のことを溺愛しているお兄様達が自らダンジョンに来ずにガルスさんに頼んだってことが地味に気になってたけど。

 そういうことなら納得できる。


「さらには、万が一の事態に備えて国防のためにアルトとエレンに王宮に来て待機するようになどと言う王命を出す始末」


「もちろん、誰が王宮に出向くかって突っぱねてやったけど。

 お陰で公爵邸から動けなくて」


「あの王命さえ無ければ、すぐにソフィーの元に駆けつけられたのに……」


「……」


 お父様も、お兄様達もなにやらドス黒い雰囲気を醸し出してるような気がするんだけど……気のせいかな?

 現在、八人いるとされる魔王。

 その力は絶大であり、単騎で一国とすら渡り合う超弩級の超越者。


 八柱の全員が危険度Sランク、天災級の存在であり。

 非公式ながら各国とギルドの上層部ではそのうちの何柱かは更に上、一般的には神話にのみ存在するとされる特Sランク、神災級に認定されている不可侵存在。


 ただでさえ単騎で国家と渡り合う力を持っているのに、中には国を築いている者もいる恐るべき存在なのだ。

 八魔王と呼ばれる八柱の魔王という強大な脅威が存在しているからこそ、ここ数十年程は国家間の大きな戦争が起こっていないとすらいわれるほどに絶大な影響力を誇る魔王。


 そんな魔王の一角。

 国を築いている魔王の一柱ヒトリにして、不死の呪王と恐れられる魔王ナルダバートが動いたってことは、下手をすれば国家存亡の危機。


 Sランク冒険者〝剣帝〟であるエレンお兄様に、賢者にして天才と称されるアルトお兄様。

 国内でも最高戦力の一角であるお兄様達に待機命令が出るのは至極当然だと思うんだけど……


「最近の王家はセドリック殿下の事といい、我がルスキューレ公爵家のことを軽く見ているのかしら?」


「まったくだね。

 いつから私達は王家の下僕になったと言うのか……これは一度、エルヴァンにお灸を据えてやる必要があるな」


 王命を当然の如く突っぱねて、国王陛下にお灸を据えてやるとすらいい放つ。

 これぞ我がルスキューレ一家クオリティー。

 それに加えて……


「さぁ、そんな事よりもソフィーちゃんのお話を聞かせてくれるかしら?」


 我が家のストッパー役であるお母様が今回はお父様達サイドに回ってるから始末に負えないっ!

 まぁ、それ程までに私が緊急依頼を受けて無断で未知のダンジョンに向かったことは心配をかけちゃってたってことだけど……


「むふふ!」


 逆にいえば、それ程までに……先陣を切って出撃しようとする程にお母様が心配してくれているということ!!

 いつもはお父様達を嗜めるお母様が、お父様達を差し置いてまで私を甘やかそうとしている! これは仕方ない、そこまで聞きたいのならしかと聞かせてあげようっ!!


「わかりました!

 まずは私とルミエ様がギルドに到着したところからですが……」





『まったく、やっぱりソフィーもルスキューレ家の一員ね』


 嬉しそうな笑顔を浮かべて自身の冒険を家族に話し始めたソフィーを見て、ちょっとした用事。

 寝起きのソフィーに告げた朝の散歩を終えてリビングにやって来ていた子猫サイズのルミエが苦笑いを浮かべた。

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