第59話 急報

「ふんふんふ〜ん」


 お屋敷の廊下を鼻歌を歌いながらスキップ!


「もう、お嬢様! はしたないですよ!!」


 早足ながらも優雅な所作で私の後ろをついてくる専属メイドのファナがお小言をいってくるけど……細かいことは気にしない!!

 なにせ! 今の私は昨日の初冒険を終えて、ほど良い疲労を癒すためにふかふかぬくぬくのベッドでぐっすり寝て気分爽快!

 そしてなにより……


「むふふっ!」


 とにかく! 私は非常にご機嫌なのだ!!

 私のスキップはもはや誰にも止められないのであるっ!!


「お父様、お母様、アルトお兄様、エレンお兄様。

 おはようございます!」


「あぁ! ソフィー!!」


「お父様……」


 まぁ、予想はできてたけど。

 もう私は10歳ですよ? さすがにちょっと恥ずかしいし、顔を合わすなり速攻で抱き上げないでほしいです。

 って、いえたらいいんだけど……これをいっちゃうと泣き崩れるお父様の姿が簡単に想像できるし……


「疲れてない? しんどかったりはしないか?」


「大丈夫です」


「そうか、ソフィーが元気そうでお父様は安心したよ」


 あれ? 珍しく今日はすぐに降ろしてくれた。


「おはよう、ソフィー」


「ソフィー、よく眠れたか?」


「お兄様……」


 そんな満面の笑みを浮かべながら両手を広げて待機しなくてもいいのに。

 それにお兄様達に抱きしめられると全然離してくれないし……


「ソフィー……?」


「ど、どうかしたのか?」


 うっ、そんな心配そうで不安げで悲しそうな顔をしないでくださいっ!!

 うぅ〜ちょっと恥ずかしいけど……仕方ない! ここはお兄様達の望み通り、ハグしてあげよう!!


「おはようございます。

 アルトお兄様、エレンお兄様っ!」


「「ソフィーっ!!」」


 まったく、お兄様達もお父様も毎朝……というか、朝に限らず顔を合わすたびに仕方ないんだから。

 さて、今日はどのくらいで離してくれるかな?


 ハグとか抱っこくらいならもう慣れてるし、全然我慢できるけど。

 さすがに膝の上に座らされて朝ごはんを食べさせられるのは慣れてたとしても恥ずかしいんだけど……


「ん?」


 あ、あれ? いつもなら最低でも10分間くらいは離してくれないお兄様達がすぐに離してくれた……?


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 お父様もお兄様達も、なんか様子がおかしい気が……


「ソフィー……」


「心配してくれるんだね!」


「っ! お兄様達は大丈夫だよ……!」


 絶対に大丈夫じゃないじゃん!


「ほ、本当にどうしたんですかっ!?」


 お父様もお兄様達も苦虫を噛み潰したような、苦渋の決断をしたような顔をしてるよ!?


「ソフィーちゃん」


「「「っ!!」」」


「お母様?」


 お母様が私を呼んだ瞬間、お父様達の肩がビクッて跳ねたんですけど……


「さぁ、お母様のところにいらっしゃい」


「あ、は、はい……」


 な、なに? どうしたの?

 ニッコリ微笑んでるはずなのに、この有無をいわせないお母様の謎の圧はっ!!

 そう、これはまるで、私のことを甲斐甲斐しく世話をしようと燃えるファナを筆頭とした使用人のみんなが偶に見せる顔と同じような……


「ふふふ、さぁ今日は私のお膝の上で朝ごはんをいただきましょうね?」


「えっ……? お、お母様?」


「ソフィーちゃんの最強になるという目標を邪魔するつもりはないけれど……心配したのよ?

 いつもはヴェルトやアラン、エレンに譲っているけれど……既に話はつけたわ」


「「「っ!!」」」


「今日くらいは私に甘えてちょうだい」


 な、なるほど……お父様達の様子がおかしかったのは、文字通りルスキューレ公爵家の真の支配者。

 当主たるお父様を差しおいて、我が家におけるヒエラルキーの頂点に君臨するお母様の影響だったのか……


 う〜ん、でもまぁお母様は基本的にはいつも残念なお父様達のストッパー役で、こうしてお母様に甘やかされることはあまりないし。

 なにより! お母様はファナと一緒でお父様達みたいに暑苦しくなくて、抱きしめられても柔らかくていい匂いがして安心する!


「わかりました! お母様っ!!」


 お母様が今日は甘えてほしいっていうのなら仕方ないっ!

 公爵令嬢として、仮にも第一王子の婚約者としては失格だろうけど……今日の朝ごはんはお母様のお膝の上で食べるとしよう!!


「ふふふ、それじゃあ改めてソフィーちゃんの昨日の冒険を聞かせてくれるから?」


 むむっ! そうですね。

 確かに昨日の夜は軽くなにがあったのかを説明しただけで、今日はもう疲れてるだろうから休みなさいっていわれて寝ちゃったし。


「わかりました!」


「えっ、いやだが……ユリアナ、その前に例の事をソフィーにも伝えないと……」


「何ですか貴方? ソフィーちゃんを私に取られて嫉妬ですか?」


「い、いや、そういうわけじゃ……まぁ、それもある事は否定しないが……そうじゃなくてだなっ!」


「はぁ……まったく、たかだか魔王の一角に動きがあっただけですよ?

 その程度の些事よりもソフィーちゃんの活躍を聞く方が優先でしょう?」


「えへへ……ん?」


 ちょ、ちょっと待って。

 お母様、今なんと……?


「ま、魔王?」


「う〜ん、ソフィーちゃんが気になるなら仕方ないわね。

 でも、この後でしっかりとお母様達に昨日の冒険の話を聞かせてね?」


「わ、わかりました」


「ふふふ、実は昨日ソフィーちゃんがダンジョンに向かったと連絡を受けてすぐに王家からも連絡が入ったのよ。

 現在存在する八柱の魔王が一角、魔王ナルダバートが動いたって」

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