第37話 おやすみなさい

「むふっ、むふふふふっ!

 ほら見てください、ルミエ様! 私の冒険者カードですよ!!」


『ふふふ、そうね。

 ちゃんと冒険者になれてよかったわね』


「はい!」


 しかも……いきなりアルトお兄様と一緒のAランク!!

 ギルドで三下冒険者に絡まれて返り討ちにするってテンプレイベントはなかったけど……特別推薦試験で数百年ぶりのAランク試験合格者!!

 他の冒険者達へのインパクトは十分!


「ふふっ」



 コンコン



「は〜い」


「お嬢様、失礼致します」


「ファナ! 見て見て、私の冒険者カード!!」


「ふふっ、もう何度も拝見させていただきましたよ。

 おめでとうございます」


「うん!」


 これが長年憧れ続けてた冒険者になった証! 私の冒険者カードっ!!


「むふふっ!」


「こほん、それはそれとして! わかっていましたが、やはりまだ起きておられたのですね。

 もう遅いのですから寝てください」


「ふふっ、ファナは大袈裟ね。

 まだそんなに遅くは……」


 あれ?


「もう夜中の12時。

 いつもならとっくにお眠りになられてる時間ですよ?」


 い、いつのまに……!!


「それとお嬢様、今日一日ずっとニヤニヤしすぎですよ!」


「むっ! ニヤニヤなんてしてないもん」


 まったく、ファナったら失礼なんだから。


「ねぇ〜、ルミエ様!」


『ん? えぇ、そうね』


「ふふん!」


 ほら見なさい! ルミエ様もこういってるんだから、私がニヤニヤしてるっていうのはファナの考えすぎなのだ!!

 確かに今の私はベッドに寝転がってゴロゴロと自堕落にだらしない格好をしてるよ?


 だがしかしっ! 今この部屋にいるのは私とファナとルミエ様だけだし、多少だらしなくてもまったくもって問題なし!

 それに! 不本意とはいえ、仮にも第一王子の婚約者にして公爵令嬢である私がニヤニヤなんてするハズがないのだよ。


『ニヤニヤと言うよりは、ニマニマって感じだもの』


「うんうん! ルミエ様のいう通……え?」


 ル、ルミエ様? 今なんて??


「ルミエ様、ニヤニヤでもニマニマでも大差ありません。

 長年の夢だった冒険者になれた事が嬉しいのはわかりますが……ギルドからお帰りになられてから、ずっと冒険者カードを眺めていらっしゃるのですよ?」


「べ、別にそんなことは……」


「お嬢様、お風呂の時ですら眺めていらっしゃいましたよ?」


「うっ……」


 だ、だって冒険者カードは防水だし、お風呂場に持って行っても問題ないんだもん!

 これは無駄に高性能な冒険者カードが悪いのであって、私は悪くないっ!!


「明日から本格的に冒険者としての活動を開始なされるのでしょう?」


「う、うん、そのつもり……です」


「でしたら、いつまでも冒険者カードを眺めていらっしゃらないで、早くお眠りください。

 休める時にしっかりと休む事も冒険者の仕事ですよ?」


「っ!!」


 た、確かにファナのいう通りだわ。

 私としたことが……っ! まさか、冒険者の心得の一つとされる休養を怠るなんて!!


「ですので、今日はもうお休みになりましょうね」


「は〜い」


 ベッドの上で寝転び直すとファナにお布団をかけられる。


「ふむ」


 けど意外だわ。

 冒険者の心得をファナに説かれたこともだけど、ファナは私が冒険者になることに反対してたのに……


「伝説の英雄様と同じ偉業を成し遂げられたお嬢様をお止めする事はできませんからね」


「っ!」


「ふふっ、顔に出ていましたからね。

 お嬢様が何をお考えになられているのか、私には手に取るようにわかりますよ」


 さ、さすがはファナ。

 この私のポーカーフェイスを見破るとは!


「もうお嬢様の実力は疑っておりません。

 ですが……いくらお嬢様がお強くなられたとしても、心配なものは心配なのです」


「ファナ……」


「ですので! 約束してください。

 必ず無事でいてくださると、怪我をしないと」


「うん、わかった!

 怪我は……ちょっと約束できないけど……」


「もうお嬢様ったら、そこは怪我なんてしないっ! って断言してください」


「ごめん」


 でも、私は守れない約束はしない主義なのだ!


「ふふ、では今日はもう寝てくださいね?」


「うん……おやすみ、ファナ」


「はい、お嬢様。

 お休みなさいませ」


「ルミエ様もおやすみなさい」


『ふふっ、お休みなさい』


 なんだかんだで今日は結構疲れていたらしい。

 枕元で丸くなってるルミエ様を撫でながら目を瞑ると一気に睡魔が……明日は冒険者としての初仕事だし、頑張らないとっ!

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