第26話 2人のお客様

 お兄様達から出された最終試験。

 冒険者ギルドによってS級危険領域に指定された、世界でも有数の危険地帯である魔の森を横断して帝国までたどり着く。


 その試験を優雅に余裕でクリア!

 白竜王であるルミエ様とお友達になったり、皇帝陛下と対面したりと色々あったあの日から1ヶ月。


 今日はソフィア・ルスキューレこと、私の10歳の誕生日!!

 お兄様達の最終試験も無事に突破して、あとは冒険者登録ができる10歳になるのを心待ちにしてた私はそれはもうウキウキした気分で朝を迎えた。


 朝はいつも通りお兄様達と修行して、今日こそはお兄様達に勝利を収め!

 お昼からはお兄様達と一緒に王都の冒険者ギルドに行って、冒険者登録をおこない念願だった冒険者になる!! ハズだったのに……


「つ、疲れた……」


 現在、時刻はお昼過ぎ。


「ふぃ〜」


 体の力を抜いて倒れ込むと、しっかりと全身を受け止めてくれる我がベッド様! 素敵です! 結婚してくださいっ!!

 本当なら公爵令嬢としてベッドにダイブなんて怒られるけど……ファナは軽食を取りに行ってて今この部屋にいるのは私だけだから問題ない!!


『あら、私はいるわよ?』


「っ!? こ、この声はっ!」


『ふふっ』


「ルミエ様っ!?」


 いったいどこに!

 いや、それ以前に私の部屋がいくら広いといってもさすがにルミエ様が私の部屋に入れるハズが……


『久しぶりね、ソフィー』


「っ──!!」


 私のベッドの上。

 思わず飛び上がって部屋の中を見渡す私の目の前に! ちょこんって!!

 ちょこんって座る猫ちゃんサイズの! 子猫のような白いドラゴンがぁっ!!


「か、可愛いっ!!」


『ぶへっ!?』


 あぁ〜! 何これ!?

 めっちゃ可愛いんですけどっ!!


『く、苦しい……潰れるぅ〜!!

 ソ、ソフィー、離して……』


「ハッ!? ご、ごめんなさい!!

 ルミエ様が可愛いかったからつい……」


『すぅ〜、はぁ〜……全く、やっぱり貴女もルスキューレ家の一員ね』


「?」


 どういうことだろ?

 私は正真正銘、お父様とお母様の。

 ヴェルト・ルスキューレとユリアナ・ルスキューレの子供だからルスキューレ家の一員なのは当然だけど。


『しかし……弱体化しているとはいえ、まさかこの私にダメージを与えるなんて。

 流石はソフィーね』


「弱体化?」


『ええ、本来の私の力は強大すぎるの。

 人間の都市なんて簡単に更地になるし、私の圧に当てられただけで常人なら死に至るわ』


 おぉう、それはなんといいますか……


「すごいですね」


 さすがは竜王たるルミエ様!

 最強の種族、竜種ドラゴンの頂点に君臨する竜王の名前は伊達じゃない!!


『ソフィー、勘違いしてるわよ?』


「勘違い?」


『力を抑えて弱体化したのが、いつもの竜王としての姿なのよ』


「えっ……」


 ちょ、ちょっと待って。

 滅多に人前に姿を見せない竜種の中でも、竜王っていえば伝説に語られるような存在のハズ。

 これは竜種について調べたから間違いない。

 そんな竜王が……本来の力を抑えて弱体化した姿?


『今は普段の弱体化から、このサイズまで縮小化した事でさらに弱体化してるのよ。

 まぁ、それでも普通は私にダメージを与えるなんて不可能なんだけどね』


「ほぇ〜」


『そんな私に僅かとは言え、ダメージを与えるなんてソフィーは凄いわ!

 まっ、そんな訳だから私を抱きしめるなら力を込めすぎないように注意してね?』


「わ、わかりました!」


 まぁ、ぶっちゃけまだルミエ様のいってることが飲み込めなくて混乱してるけど。

 猫ちゃんサイズの超絶可愛いルミエ様を抱っこできるのなら、この際細かいことは別にいいや。

 私がとやかく考えたところでどうにもならないし、ルミエ様はやっぱりすごいってことだな、うんうん!


「あっ、そういえばどうしてここに?

 用事はもういいのですか?」


 1ヶ月前。

 私がお兄様達と一緒にイストワール王国に戻る時に、ちょっと用事ができたっていってたけど……


『あぁ……まぁ、その用事なら終わったわ。

 そして、私がここにいるのは当然! ソフィーのお誕生日を祝うためよ!!』


「っ!!」


『ふふっ、ソフィー。

 10歳のお誕生日、おめでとう』


「あ、ありがとうございます!」


 これはもう抱きしめてもいいのかな?



「っ──! お止まりください! いくら殿下でもこのような事っ!!」



「……」


 せっかくいい気分だったのに。


「ルミエ様」


『問題ないわ。

 私の姿は私が認めた者にしか見えないから』



 バンっ!!



 突然扉が開け放たれる。


「あぁ、ソフィア嬢! 会いたかったですよ!!」


 ノックもなしに私の部屋に押し入ってきた男。

 不本意ながら私の婚約者であるセドリック・エル・イストワールが笑顔を浮かべてそう言い放った。


「ご機嫌よう、セドリック第一王子殿下」


 私はまったく、これっぽっちも会いたくなかったけどな!!

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