第27話 私の手腕っ!

「殿下!」


 むっ、セドリックのあとを血相を変えて追いかけて来たファナがセドリックを嗜めた。

 セドリックを止めようとして声を荒げてたのはファナだったらしい。

 まぁ、声以前に私の魔力感知で最初っからわかってたけど!


「お嬢様のお部屋にノックも無しに……」


「はぁ、そんなに大声を出さないでも聞こえていますよ。

 ファナ……でしたね? ソフィア嬢の専属ならば、もう少し礼節を身につけた方いい」


「っ!!」


「……」


 は? えっ? コイツ、今なんていった?

 私のファナに……私の専属メイドであるファナに向かって礼節を身につけろ?

 いやいやいや! 現在進行形でノックも無しに淑女の部屋の扉を開け放って、押し入ってきてるくせに何いってんのっ!?


「で、ですが! いくら殿下と言えども、淑女の部屋に押し入るなど許されません。

 もし仮にお嬢様がお着替えをしていらっしゃっていたらどうするおつもりですか!」


 そうだ! そうだ! ファナ、もっといってやれ!!

 私は今、薄手のワンピースを一枚着てるけど……これはパジャマのネグリジェとそう変わりない。


 まぁ、これから冒険者になろうって私だからセドリックに見られてもこの程度で取り乱すことはないけど。

 普通の御令嬢なら悲鳴をあげていてもおかしくない場面なのだ!


「私はソフィア嬢の婚約者ですからね」


「「……」」


 だから何っ!?


『ふむ、これはまた凄まじい阿呆ね』


 おおぅ、さすがはルミエ様!

 仮にも一国の王子様に向かって辛辣! でも、猫ちゃんサイズだから悪態をつく姿もかわゆいっ!!


「ソフィア嬢、こんな事は言いたくありませんが……側に置く者は選んだ方がよろしいかと」


「はっ?」


 こ、このクソ王子、今なんていった?


「そのせいでソフィア嬢が傷付くような事があれば、私は耐えられません」


「……」


 お、落ち着け、落ち着くんだ私。

 私はたった一年足らずで淑女教育を完璧に熟してみせた天才! 将来は社交界を優雅に舞う悪役令嬢なのだ。

 めちゃくちゃ! 心底! イラってしたけど、もう思いっきりぶん殴ってやりたいだけど……ここは大人の対応を見せてやろう。


「そう、ですか……」


「ええ、よろしければ王宮からこの者の代わりを出しましょうか?」


「っ……ふ、ふふふ」


 ここまで私のファナを侮辱するなんて……もういい、まだ一国を相手取れるほどの実力はないけど、もうそんなことは知ったことか!

 第一王子だろうと、王太子だろうと、国王だろうと関係ない! この場でこのバカ王子を泣かせてやるっ!!


「ご忠告、ありがとうございます。

 ですが、お忙しい殿下にそのような手間を取らせるわけにはいきません」


「ふふっ、貴女のためなら大した手間ではありませんよ。

 私が少し睡眠時間を削れば済む話ですから」


「まぁ、それはいけません、もっとお身体を気遣ってください」


「ソフィア嬢にそう言われてしまっては逆らえませんね」


 この5年、散々付き纏われてこのアホ王子に嫌味が通用しないことはわかっている。

 だからストレートにいってやるわ!


「あぁ、それと本日の私の誕生日パーティーですが」


「ソフィア嬢の婚約者として、しっかりとエスコートさせていただきますのでご安心を」


「いえ! 日々の激務でお疲れ殿下のお手を煩わせる訳にはいきません!!

 エスコートはお兄様達にお願いしますので、殿下はどうか王宮に戻ってお休みくださいませ」


「えっ……」


「それはそうと、実は今から着替えようと思っていたのですが……殿下がいると着替えられませんので出て行ってもらえますか?」


「ソフィ……」


「ファナ、殿下がお帰りになるって執事長のバルトに伝えてくれるかしら?」


「かしこまりました」


「では殿下、またお会いしましょう。

 それと、どうかお身体にはお気を付けくださいね」


 私がニッコリと微笑みの仮面を向けると、クソ王子が何かいうよりも先にファナが扉を閉める!

 これで、私は婚約者である殿下の体調を気遣っている婚約者という体面を保ちつつ、嫌いなクソ王子を追い返してやったわ!!


「ふふん!」


 これぞ! 最強で優雅な悪役令嬢たる私の手腕っ!!


『ふふっ』


 なぜかルミエ様から微笑ましそうな生暖かい視線を向けられてるけど……とりあえず、これで今日の誕生日パーティーの大きな憂いが1つなくなった!

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