第2章 ギルド登録編
第25話 拉致された……
「むふふっ」
「お嬢様……抱きしめてもよろしいでしょうか?」
「えっ?」
ファ、ファナさん?
いきなり何いってるの?
「はっ! も、申し訳ありません!!
私とした事が……嬉しさを隠しきれずにずっとニマニマしていらっしゃるお嬢様があまりにも可愛らしくて、つい本音が出てしまいました」
「なるほど〜」
なるほど? なるほどなのかな?
う〜ん、まぁ何でもいいや!
「ん!」
「お嬢様?」
「抱きしめてもいいよ?」
そもそも! 私は別に誰かに抱きしめられたり、ナデナデされるのは嫌いじゃないし。
むしろ結構好きだけど……あまり私に甘えてくれず、いつも私のお世話を頑張ってくれてるファナが珍しく本音を漏らしたのだ。
うんうん! これはいつも私のお世話をしてくれてるファナに対する私からのご褒美!
私がファナにギュッとされたいから甘えてるわけでは断じてない!!
「っ〜!! あぁ〜もう! お嬢様ったら、そんな事を言われてしまっては我慢できないじゃないですか!!」
ヒシッと抱き着いて来くるファナ。
ふっふっふ〜、私は仕えてくれてるファナや、他の使用人のみんなをちゃんと労うことができる公爵令嬢なのだ!!
さぁ! 思う存分、私を抱きしめてナデナデするがいいっ!!
お兄様達に抱きつかれるのは暑苦しいし、顔を合わせる度に抱きしめようとしてくるから……ぶっちゃけ、回数が多すぎてちょっとウザい。
けどファナに抱きしめられて、ナデナデされるのは違う!
まず第一にお兄様達と比べてファナが私を抱きしめるのは2日に一回程度でそこまで頻度が高くない。
それに全く暑苦しくないし、ファナの身体は柔らかくていい匂いがして、抱きしめられてるとなぜかちょっと安心する。
「ふぅ〜……さて、ではお嬢様、そろそろ準備を始めましょうか」
「むっ、もういいの?」
「はい、それよりも今日は大事な日なのですから、しっかりと準備をお手伝いさせていただきます!」
おぉ〜、いつも以上にやる気満々だ。
けど……別にもうちょっとギュッとしてくれてもいいのに……
「では、まずはお髪を梳かせていただきますのでこちらに」
「は〜い」
ファナに従ってドレッサーの前に座る。
うん、毎回思うけど基本的に私の髪はサラッサラのストレートなのに、何でこんなピロンって跳ねてる変な寝癖がつくんだろ?
「ふ〜む……謎だわ」
「ふふっ、今日もまた可愛らしい寝癖ですね」
「そう?」
「はい、旦那様やアルト様にエレン様はもちろん、奥様ですら今のお嬢様を見たらまず間違いなく抱きしめられますよ?」
ふむ……まぁ、お父様やお兄様達は確かにだらしない顔をして抱きしめてくる場面が容易に想像できる。
何せ残念なお父様達だし。
けど、いつもは残念なお父様達の手綱をとってて、しっかり者でカッコいいお母様もか〜。
「ふふん!」
ファナいうのならそうなんだろう。
さすがは私! 寝起きですら、私の溢れんばかりの魅力が翳ることはないとは!!
まっ、前世の記憶によると私は将来、社交界で月の女神と称えられる絶世の美女になるわけだし。
公爵令嬢にして悪役令嬢である私が魅力に満ちてるのは当然なのだ!!
「さてお嬢様、今日は忙しくなりますよ」
「うん」
今日もいつも通り、ファナに朝支度を手伝ってもらって朝ごはんを食べたら修行をするつもりだけど……今日こそは必ずや、お兄様達に勝利してみせる!!
「お髪を梳いたら、湯浴みの準備が整っておりますのでお風呂に」
「えっ?」
「そこから半日、私達が総力を上げてお嬢様を磨かせていただきます!!」
そ、そんな……! 何でそんなことにっ!?
「何せ、今日はお嬢様の10歳の誕生日ですからね。
夜に開かれるパーティーに向けてしっかりと入念な準備をしなければなりません」
「えっと……ファナ? 私は別にそこまでしなくてもいいと思うんだけど……」
「ふふふ」
「っ!!」
ニッコリ微笑んでるのにファナが怖いっ!!
パチン
ファナが指を打ち鳴らすと同時に、待ってましたといわんばかりの勢いでメイド達が雪崩れ込んで来る!
「あ、あのぉ……」
「さぁ、お嬢様! 参りましょうか」
「……はい」
ソフィア・ルスキューレ、10歳。
誕生日の朝に専属メイドのファナを筆頭に意気込むメイド軍団によって拉致されました……
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