第8話 完璧な理論!

「……」


「ソフィーちゃん?」


「前世の……」


「それはいったい……」


 まぁ突然、前世の記憶とかいい出されても信じられないのはわかる。

 ラノベの主人公達も信じてもらえないことを危惧して、相談してたいけど誰にも話せない秘密にするってパターンが多いみたいだし。


 でも……家族に疎まれてるとか、虐待されてるとかだったらわかるけど、そうでもないのに頑なに秘密にしようとする意味がわからない。

 未来の情報がわかるなら、それを証拠に力付くで説得して家族の協力を得た方が絶対にいいと思うのに。


「詳しく聞こう」


 おぉ〜! 珍しくお父様が真面目なお顔をしてる!!

 これは私も腰を据えて話さなければ! とりあえず座り直して……


「こほん、セドリック殿下のお顔を見た瞬間に、頭の中に膨大な量の見た事もないはずの光景が……前世の記憶が溢れかえりました。

 多分、熱を出して倒れてしまったのはこれが原因です」


 アレは本当に凄まじかった。

 一瞬にして一気に脳内を駆け巡る、脳が焼き切れて頭が爆発するかと思うほどの凄まじい量の情報。

 我ながらよく廃人にならなかったと思う。


「そして、その前世の記憶には乙女ゲームというこの世界の……私達の未来を予知した予言書のようなモノがあるのです」


「乙女ゲーム……」


「詳細は省きますが。

 それによると、セドリック殿下の婚約者となった私はイストワール王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を告げられ……幽閉、国外追放、公開処刑などと様々な悲惨な末路を辿ることになるのです」


「なっ!?」


「「「っ!!」」」


「もちろん、確実にその未来が訪れるという確証はありません。

 ですが、逆に絶対に訪れないという確証もありません!」


 尤も! そんなことになるつもりは毛頭ないけど!!


「そこで、私は考えました。

 どうすれば破滅を回避することができるだろうかと……そして、決意したのですっ!

 私は最強になるとっ!!」


「最強に……」


「ソフィーちゃん……」


 あ、あれ? 思ってた反応と違う。

 ここはもっと、おぉ〜っ! って感じで私の威厳と覇気にどよめきが起ると思ってたのに……


 残念なお父様達はまだわかる。

 なんたって残念なお父様達だし、だけど……どうしてお母様までちょっと呆れたような感じの苦笑いを浮かべてるんだろ?


「えっと……ソフィー、1つ聞いていいかな?」


「何でしょうか? アルトお兄様」


「まだソフィーの話を全て飲み込めたわけじゃないけど。

 とりあえず、その乙女ゲームという予言書のような物によるとソフィーはイストワール王立学園の卒業パーティーで婚約を破棄されて破滅するって事だよね?」


「うん、そうですよ?」


「それで、どうして破滅を回避するために最強になろうと決意したの?」


 ふっふっふ〜、 アルトお兄様よくぞ聞いてくれました!


「耳の穴をかっぽじってよく聞いてください! 私が考え至った完璧な理論を教えてあげましょう!!」


「「「「……」」」」


 なぜか皆んな黙り込んじゃったけど……まぁ、いいや。


「乙女ゲームの中の私はセドリック殿下に衆人環視のなか婚約を破棄され、傷物にされて貴族令嬢として未来を潰され、さらには! 悲惨な末路を辿る事になるわけですが。

 では、なぜ私はそのような末路を辿るのでしょうか?」


 答えは簡単!


「私に抗うだけの力がなかったからです!

 王族であるセドリック殿下の持つ権力に、国の力に抗って打ち勝つだけの力を持っていれば例え断罪されようとも死ぬことはありません!

 つまり! 私が最強になればいいというわけなのです!!」


 ふふ〜ん! 我ながら完璧な理論だわ!!


「というわけでお父様。

 さっきも言ったように、 私は最強への第一歩として手始めにまず冒険者になります!!」


 ふっふっふ〜、起きてからずっと考えに考え抜いた私の理論武装を論破し、我が覚悟を崩せるものなら崩してみせろ!!


「ソフィー……」


 おっ、最初はエレンお兄様ですね。

 いいですよ? どこからでもかかってくるが良いですっ!!


「あのね、冒険者ギルドに登録して冒険者になれるのは10歳からだよ?」


「……えっ」


「それと、ソフィーちゃん。

 貴女、またお兄様達のお部屋に忍び込んで冒険小説を読んでいたわね?」


「っ!?」


 な、なぜそれをっ!?


「そ、そそそんな事はないですよ?」


「ふふふ、動揺を隠しきれてないわよ?

 それに、耳の穴をかっぽじって、なんて言葉をどこで覚えたのかしら?」


「そ、それは……」


「……」


 む、無言で微笑んでるだけなのに、お母様が魔王様に見えるっ!!

 だ、だけど! 最強を志すものとして、屈するわけには……!


「ソフィー?」


「あの、その……ごめんなさい」

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