第7話 前世の記憶を思い出したのです!!

「「「「……」」」」


 一瞬にして室内が静まり返って、痛いくらいの静寂が舞い降りる。



 カラン……



 優雅に足を組んで、コーヒーカップにお砂糖を入れて混ぜていたお父様の指からスプーンが落ちた……けど、誰も微動だなしない。


「あの、スプーン拾わないのですか?」


 雷に撃たれたように固まってしまって、今はこれでもかと目を見開いて私を凝視しているお父様達。

 ファナを始め使用人のみんなも全く動かないし……というか! 気まずいから何か言ってほしいんだけどっ!!


 あっ! もしかして、聞いていなかったのかな?

 お父様とお兄様達はちょっとウザいくらいに私を溺愛してるし、それはお母様も例外ではないと思う。

 もし違ってて、これが私の思い込みなら数ヶ月は部屋に引き篭もって泣く自信がある。


 とまぁ、話が逸れたけど。

 私を溺愛するお父様達はキリリっと真面目なお顔をしつつ、心の中ではいつものようにデレデレと私を見ていて話をちゃんと聞いていなかったという可能性が大いにある!


 公爵家の当主であるお父様に、天才と称されるお兄様達。

 そしてそんなお父様とお兄様達の頂点に君臨するお母様だけど……お父様やお兄様は露骨に残念なところがあるからな〜。


 お母様が残念なお父様達みたいに聞き逃すなんてことをするとは思えないけど……こうなったら仕方がない!

 ここは、もう一度ビシッと宣言を……


「ソ、ソフィー、冒険者になると……冒険者になると、今そう言ったのかな?」


「? はい、そうですよ」


 なんだ聞こえてたんだ。

 むぅ、なら黙り込まないで返事をしてくれたらいいのに……


「ソ、ソフィーちゃん! どうしていきなりそんな事を!?」


「っ! それ程までにセドリック殿下との婚約が嫌だったのか!!」


「あぁっ! 可哀想なソフィー」


「大丈夫、お兄様達が守ってあげるから!」


 えっ! なになにっ!?


「あの、どうしたのですか?

 ただ冒険者になるって言っただけですよ?」


 何でこんな騒ぎになってるんだろ……ただ冒険者なるって宣言しただけなのに。

 エレンお兄様だってSランク冒険者なんだし、私が冒険者になっても別に不思議じゃないと思うんだけどなぁ。

 まぁ、確かにセドリック殿下との婚約は嫌だけど。


 前世の私の記憶にある知識によると。

 もし仮に私が殿下の婚約者になってしまった場合、虐待みたいな王子妃教育とか王妃教育とかで忙しくなるらしい。

 そんなのは面倒……げふん! げふんっ! 大変そうだし!!


「安心しなさい。

 ソフィーが嫌だというのなら、例え王命であろうともソフィーにセドリック殿下と婚約をさせたりはしない!!」


 お父様……お気持ちは嬉しいのですが、軽く反逆罪ととれる発言はやめてほしいのですが……

 それにっ!


「お父様、違います。

 確かにセドリック殿下との婚約は嫌ですが、それとは関係なく私は冒険者になると言っているのです!」


 仮にセドリック殿下の婚約者にならなかったとしよう。

 だからといって理不尽な権力に振り回されることは無いと何故言い切れる?

 つまり! たとえどのような状況になろうとも対応できるように、力があることに越したことはないのだ!!


「もちろん、理由もあります。

 ただ単に好奇心から遊び半分でいっているわけではないのです!」


「ふぅ……わかった。

 本当ならすぐにでもダメだと言いたいところだけど……これはソフィーたっての望み。

 話だけでも最後まで聞こう」


 悪役令嬢モノのラノベとかでは、主人公は自分が前世の記憶を思い出したことをなぜか頑なに隠そうとする……だがっ! 私は違うっ!!


「実は、セドリック殿下との顔合わせで倒れてしまった時……前世の記憶を思い出したのです!!」


 ドドンっ! ふっ、決まったわ!!

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