修羅場タイム 4

 クリスマスの次の日。

 気づけば朝になっていた。

 真弓が帰ったあと、俺はベッドの上で壁にもたれながら膝を抱えてずっと考えていたらしい。

「ん、おはよう」

 八時過ぎ、ソファから咲葵が起きてきた。

 昨日のことをあまり覚えていないのか、上半身を起こしたままテーブルを見て固まっていた。

 それからすぐに思い出したのか、部屋の中をキョロキョロと見渡してから俺を見た。

「真弓は?」

「帰った」

 少しぶっきらぼうな言い方になってしまい、寝起きにも関わらず、勘が冴えていた。

「……喧嘩しちゃった?」

 ゆっくりとうなずく。

「そ」

 深くは聞かずにトイレ借りるねといって部屋を出ていった。

 俺もベッドの上でじっとしているわけにはいかないと思い、ベッドから下りるとテーブルに残った昨日の残りを冷蔵庫に片付けた。


 トイレから戻ってきた咲葵がソファに座り込んで、誰も手を付けなかったケーキを頬張っている。

「朝からよく食えるな」

「もう捨てるって聞いたら、もったいないじゃん」

 それはそうだけど、昨日のことが残っていて朝から何も食べる気にはなれなかった。

「ねぇ俊樹、どうしてあのとき私を抱いてくれたの?」

「んっ!!」

 思いもしなかった質問にむせてしまった。

「そんなに苦しんでるんなら、私のこと拒めばよかったのに。後ろめたいのってそのせいなんでしょ?」

「それは……、まぁそうなんだが。あの日の咲葵が見ていられないぐらい小さく見えたから、それに部活を辞める原因になったこともさ」

「ふ〜ん、慰めるためだけに抱いたんだ」

 それだけといえば嘘になりそうだが、実際そうだった。

「ま、あの頃から気にはなってる男の子だったし、処女ぐらいあげてもいいかなって思ってたから」

「せめてオブラートに」

「じゃあ初めて? って、二人しかいないんだからいいでしょ、それぐらい」

 それよりも、と話を続ける。

「昨日は何で喧嘩したの?」

 その言葉で真弓とのやり取りを思い出す。

「傷つけてもいいから真弓のことが好きなのか、嫌いなのか、はっきりしてほしいって」

 何を考えているのか、数回うなずく咲葵。

「ふ〜ん」

「それだけ?」

 思い当たった事があったのかと期待してたのに。

「それだけ。ただ、真弓も酷いなって」

「酷い?」

 わかってないの? という感じで首を傾げられた。

「私のいる真隣で問い詰めたわけでしょ? 答えられるわけないじゃん」

 状況が見えてなさすぎと呆れられた。

「酒も盛られてるんだから正常な判断ができるわけないって言ってんの」

 確かにそうかもしれない。

「じゃあこの話はおしまい。もしこれで疎遠になるようだったら私がいるんだから当たって砕ければ?」

「そう聞いたら、俺って本当に最低だな」

 いまさら? と、笑い出す咲葵。

「いいよ、堕ちるんなら一緒に堕ちてあげるから。なんなら子宮も貸してあげる。ずっと飲んでるから出し放題!」

「からかいすぎ」

 苦笑いを浮かべていると、何故か同じように笑いあった。

「そうだ、今日はどうすんの? 俊介も呼んで遊ぶっていってたけど」

「いまは誰かと遊べるようなメンタルないからやめとくよ」

「そ、じゃあ私も帰るかな」

 このままいたら襲いそうだしと嘲る咲葵はそれからすぐに帰っていった。


 一人になった部屋の中でデスクに置いているスマホを手に取って電話をかけた。

 相手はもちろん真弓。

 咲葵が背中を押してくれたおかげで、気持ちが楽になっていたのはありがたかった。

 数回のコールの後、真弓が出てくれた。

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