確かめたいこと 1
「今年もホワイトクリスマスになるのかな」
真弓が窓の外を眺めながらぽつりとつぶやく。
四人で駅前のイルミネーションを見に行った次の日、俺と真弓は朝礼前に、二人きりの美術室で話をしていた。
「どうだろう、天気予報では降らないっていってたけど」
「そっか、降ってくれたらいいのに」
なにか含みのありそうな、それでいてそっけない返事だった。雪が降らないことは多分知っていたんだろう。
「ねぇ覚えてる? 去年のクリスマス」
振り返り懐かしむように俺を見る。
「あぁ」
覚えている。
忘れられるわけがない。
そのクリスマスは今年とは違い、真弓の期待していたホワイトクリスマスだった。
昨日のように咲葵、俊介と4人で集まって久里浜まで行き海まで歩いたり駅前のカラオケで歌ったり遊んだりした。
その帰り。
俊介がまとめて会計をしているときに、俺と真弓は出口の外で待っていた。
何気なく雪の降る空を見上げていると、不意にキスをされたから。
軽く頬に触れるだけのキスだった。
新愛の証といってはぐらかされたが、すぐに俯かれれば好意に気づかないはずがない。
もう少し早ければ、お互い付き合っていたと思う。
俺と真弓の雰囲気を察したのか、俊介と一緒にいた咲葵が自動ドアから勢いよく出てきて俺との間に体を入れて制止してきた。
意識を過去から戻すと、真弓が窓辺から俺の前へと移動していた。
目が合うと少し潤んでいる。
意を決したように口を開く。
「もし、もしね、今年のクリスマスに雪が降ったらもう一度キスしてもいい? 次は、恋人として」
返事を待つ時間を長く感じながら、即答できない自身を殴りたくなる。
その答えは卒業式まで待ってほしい。
ただそれだけの言葉が言えなかった。
重くなってきた空気に耐えられなくなり視線を床へと落とす。
「ご、ごめんね、困らせて、あはは……」
困らせているのは俺の方なのに、そう思っているとちょっと待っててと、真弓はカバンを置いている机に向かった。
すぐに戻ってくると手になにか持っていた。それを俺の目の前に差し出した。
「これってボンボン?」
一瞬ぼやけた視界からピントを合わせると、それは冬季限定でコンビニに並んでいるアルコールの入ったチョコレートだった。
「うん、これをね」
といって、箱を開けて一粒取り出すとウイスキーの酒瓶を模した包を剥がしそれを口に一度咥えてから含んだ。
その仕草があまりに妖艶で、網膜に焼きついて離さない。
何かを欲しそうに潤んだ瞳を向けて俺の目の前まで近づく。
まるで蛇に睨まれているようで動けないでいると、踵を上げ胸元に両手をついて寄りかかってきた。
んっ……!
一瞬何が起きたのかわからなかったが、鼻に抜ける甘さとアルコールの香りですぐに理解できた。
真弓が含んでいたウイスキーボンボンを俺の口内へと移していた。
咄嗟に真弓の両肩を掴んで体を離す。
口と口を伝う真弓の唾液から真っ直ぐな想いが伝わってくる。
「どうして?」
受け入れられなかったことにショックを隠せない真弓はさっきとは違う意味で潤るんだ目を向けてくる。
「ごめん」
「咲葵とはできるのに?」
それはなにも知り得ない真弓から聞くことは返事のはずだった。
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