25  火を吐く魔獣





「なっ なにー! あのイビルキャットと魔狼が一瞬の内に手懐けただけではなく、お腹を見せて服従の意思を見せているだとー!!? 更に左右の手でそれぞれのそのお腹を擦っているだとー!!」 


 シャルーとハティは床に仰向けでお腹を見せている。


 動物界において、お腹を見せるという行為は服従を意味しており、メルルは右手でシャルーの左手でハティのそれぞれ擦っている。


「でも二匹とも成体じゃないからな~。幼いからな~。甘えたい盛りだしな~」


 アルスがメルルの能力に疑問を抱いていると、シャルーが気持ちよさそうな声で彼に彼女の能力の凄さを伝えてくる。


「まおうしゃま、メルルしゃんはすごいテクニシャンですにゃ~。気持ちよくなる場所をピンポイントに触ってきて、服従してしまいますにゃ~」


 この言葉から、シャルーはメルルの業に完落ちしてしまっている。


「いかがですかな、魔王様。我が孫メルルの実力は? きっとお役に立ちますぞ。是非新生魔王軍の末席にお加えください」


(資金援助して貰っているし… 無下には出来ないな…。まあ、シャルーと一緒に安全な後方に待機させておけば問題ないか)


「わかった。メルルの参加を許す」


 アルスはメルルの新生魔王軍参加を認めることにした。


「ありがとうございます」

「魔王様、一生懸命がんばります!」


 新生魔王軍現在のメンバー、元魔王(ヘタレ)、魔狼双剣士(人見知り少女)、魔物使い(お利口さん幼女)、イビルキャット(子猫)、魔狼(仔犬)以上!


(まだまだ先は長いな……)


 アルスはため息をつくと、新たな依頼を受ける為に王都へ向かうことにする。


「メルル、魔法で人間の姿に化けたね? お金は持ったかい? ハンカチとテッシュは? 水筒は? おやつは?」


「おじいちゃん、全部持ったよ」


 頭に麦わら帽子を被ったメルルは、背中のリュックを祖父に見せて笑顔で答える。


(おやつって、遠足じゃねえんだよ!! いや、現状は遠足みたいなものか… )


 二人のやり取りを見て心の中で突っ込むが、


「ハティ、お手!」

「わん!」


 お手の指示を無視して、尻尾を振って主人を見上げるハティと困った表情のルイス。


「ころころ、これ楽しいにゃ~」


 メルルから貰ったボール遊びに夢中になっているシャルー。

 現在のメンバーを見て遺憾ながら納得してしまう元魔王。


「さて、王都に次の依頼を受けに行くぞ」


 アルスは愉快な仲間達に声を掛けると屋敷の外にでる。


「アルスに様、少し待ってくれませんか?」

「うん、いいよ」


 外に出るとメルルが、このようなお願いしてきたので、聞き入れると彼女は説明を始める。


「ありがとうございます。これから、私が使役する魔獣ガムルを呼びます」


 メルルが指笛を鳴らすと、牧場から勢いよくこちらに走ってくる。

 恐らく件の魔獣ガムルであろう。


 魔獣ガムルは、赤と黒の混じった毛を持った犬のような魔獣で、その牙と爪は鉄をも切り裂き、口から吐く炎は鉄を溶かすという強力な魔獣である!


 成獣ならば!!


 そして、予測通り近づいてきた魔獣は仔犬であった。


 といっても、魔獣であるためハティと同じく普通の仔犬より大きく普通の犬の成犬ぐらいの大きさはあるというハティとキャラがやや被っている。


(ハティ、よかったな。お友達が出来たぞ)


「わんわん」

「わんわん」


 二匹は尻尾を振りながら鳴きあうと、仲良く並んでその場に座る。


「アルス様、私が使役する魔獣ガムルのムルです」

「わん」


 ムルは”よろしくおねがいします”といった感じで、尻尾を振りながら挨拶してくる。


「メルル、このままの姿だと街で騒ぎになるから、この”変化の首輪改”をムル付けてくれ。ルイス、ハティもコレと交換してくれ」


 これは以前ハティのために作った即席の変化ロープの改良版で、今度は首輪型になっており、呪文を唱えることによって効果が発動するようになっている。


 因みにムルに与えたのは、ハティの予備である。


「おお、魔王様の便利グッズですな。以前作っていただいた袋止めクリップは、今も重宝しております」


(それよりも複雑なモノだけどな… 後、マジックアイテムな!)


 アルスはメフィレの言葉に、心の中でそうツッコミながら2匹に装着させる。


 そして、呪文をそれぞれの主人に唱えさせると、2匹は仔犬サイズに縮む。


「よし、では王都に行くぞ」


 準備が済むと転送魔法で王都に向かう。


 初めての王都の活気に、メルルは興味津々の目で、辺りをキョロキョロと見ている。


 彼女が今まで暮らしていた場所は、人より動物、建物より自然のほうが多かったのだから無理もない。


「ルイス、メルルの手を握って迷子にならないようにしておいてくれ」

「わかりました……」


 フードを被ったルイスから歯切れの悪い言葉が返ってくる。

 どうやら、幼女に人見知りを発動しているようだ。


「ルイスはお姉ちゃんなんだから、頑張りなさい。ムルを見てみろ、年下のハティの面倒を見ているぞ」


 ムルはハティより年上のお姉さんなので、後ろから付いてくるハティが他の事に気を取られそうになると注意するように「わん!」と鳴いて、後ろを付いてこさせている。


「わかっています…」


 ルイスが恐る恐る手を差し出すと、メルルは小さな手で彼女の手を握ると笑顔で、御礼の言葉を言ってくる。


「ありがとう、ルイスお姉ちゃん」

「きゅん」


 その愛らしい笑顔に、心を奪われたルイスは心を許したのか手を握ったメルルと会話を始める。


「さて、冒険者組合に依頼を受けに行ってくるから、ここで待っていてくれ」


 冒険者組合の建物の近くに二人と2匹を待たせて、アルスは一人中に入っていく。


 壁に貼られている依頼書を見ていると、後ろから不意に声を掛けられ振り向くとそこには<優秀な姉>レイラ=クライトンが立っていた。


「ひさしぶりね、アルス」

「姉さん…」


 レイラはアルスの5歳上の姉で、現在過去の自分を倒した他の勇者パーティの子孫とパーティを組んで活躍している今注目の若手冒険者である。


「お父さん達から話しは聞いていたけど、今家を出て冒険者をしているんですって?」


「ああ、そうなんだ。使い魔(子猫)と凄腕の女剣士(人見知り)とその相棒の狼(仔犬)、腕のいい魔獣使い(幼女)とその下僕の獰猛な犬(仔犬)とパーティを組んでいるんだ」


 アルスは姉を心配させないために、盛った仲間の自己紹介をする。


「そう、バランスは悪いけどいいPTみたいね。私はてっきり貴方が冒険者になる時は、フィリアちゃんも一緒だと思っていたんだけど… 」


「……」


 フィリアの名前を出された俺は、何故かは解らないが沈黙してしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る