24 新たな仲間登場!
村に続く道を暫く歩いていると、村の方から数名の村人がこちらに向けて歩いてきて、目の前まで近づいて来ると慌てた感じでアルスに話し掛けてくる。
「おお、冒険者殿! 今しがた野営陣地の方から、凄い爆音の後にキノコのような雲が立ち昇っていたのですが、一体何があったのですか!?」
「あっ あれですか? あれは… その… そう! 私の最高位火属性魔法とオークの野営陣地にあった何か<物凄く大爆発するモノ>とが影響しあって、なんやかんやで大爆発を起こしたみたいです! いやー、怖いですねー」
アルスは<ダーク・ヌーク>のことは言えないので、誤魔化すことにした。
「何ですか、その<物凄く大爆発するモノ>とは!? あと、<なんやかんや>とは何ですか!?」
「<物凄く大爆発するモノ>は、爆発して跡形も無く吹き飛んでしまったので、今となってはその正体はわかりません。あと、<なんやかんや>は<なんやかんや>です!!」
だが、アルスは自分では上手く誤魔化したつもりでいるが、明らかに苦しい説明であった。
「どう思う?」
「魔法の事はあまりわからないからな…」
「彼の言っていることが、正しいのだろう」
だが、田舎育ちで魔法や戦いに詳しくない村人達は、この理由に少し疑問に思いながらも一応納得することにした。
「それにどう見たって、あの頼りない青年があんな凄い魔法を使えないだろう」
「そうだな。あの弱そうな青年が、そんな事出来るわけないな」
(村の皆さん、ヒソヒソ話が聞こえていますよ?)
何より、例え高名な魔法使いの子孫だとしても、目の前の頼りない風貌の青年が、あのような高威力の魔法を使えるとは思わなかったからだ。
丁度いいので、アルスは村人に壊滅したオーク野営陣地を見てもらい、依頼を達成したことを確認してもらう。
「これなら、生き残ってはいないでしょう。依頼達成を認めます。村に返ったら、依頼書に達成印を押させてもらいます」
こうして、新魔王軍二回目の依頼は達成される。が――
今回の依頼の報酬は、ここまでの交通費と食事代、昼間がぶ飲みした薬品の代金で、残り数百円となってしまった。
宿代がないので、転送魔法でメフィレの屋敷に戻ってくると
「――というわけで、すまない。今夜も部屋を貸して欲しい」
メフィレに部屋を貸して欲しいと頼むことにした。
実家に帰ることも考えたが、両親からルイスの事を聞かれると面倒なのと、何よりあんなに大見得を切ったフィリアに合わせる顔がなかった。
そのため魔王としては情けないがメフィレに頼ることにしたが、
「魔王様、何を水臭いことを! 拠点が完成するまで、遠慮なく滞在してください。今すぐ夕食を用意させます」
「メフィレ、すまない」
彼は主を快く迎え入れ夕食まで用意してくれる。
翌日―
朝食の後、メフィレは神妙な面持ちで、このような事を聞いてきた。
「魔王様。新生魔王軍設立の資金を稼ぐために、依頼を受けて魔物と戦っていると聞きましたが?」
「まだ2回だけだがな」
「私がもう少し若ければ、昔の様に轡を並べて戦いたいのですが、もう歳でお役に立てません。そこで、我が一族で一番優秀な魔物使いを、部下として仕えさせてください。もちろんその者の賃金も食費もこちらで用意するので、その事は心配しないでください」
「それなら…」
人件費が掛からないなら、戦力は大いに越したことはないので断る理由は無い。
「ありがとうございます。実は既に隣の部屋に呼んでいるのです」
彼は机の上に置いてあるベルを5回鳴らして、その者を隣の部屋から呼び寄せると暫くして、扉をノックする音が室内に響き渡る。
「入りなさい」
メフィレが入室するように促すとドアが開き、10歳ぐらいの少女が入室してくる。
(またか……。メスレといいキャスパーグといい新生魔王軍を、託児所か何かと勘違いしているんじゃないのか?)
アルスは内心ゲンナリしてしまう。
「魔王様に、自己紹介をしなさい」
「魔王様、メフィレの孫で、メスレの娘メルルです。若輩者ですが粉骨砕身努力して、魔王様にお使え致します。以後お見知りおきを」
「うん。メルルちゃんは、若輩すぎるね。でも、年の割にはしっかりした挨拶のできる子で、お兄さん感心しちゃったよ!」
アルスは思わず本音を漏らしてしまうが、メルルがちゃんと挨拶できたのでそこは褒める。
「魔王様! メルルはまだ幼いですが、一族でも一番の魔物使いの才を持ちます」
「幼稚園で、カケッコが一番とか言わないよな?」
アルスは皮肉を込めて突っ込むと
「いえ、幼年学校で一番です」
「そこはどうでもいいんだよ」
メフィレはこのように訂正するが、アルスが聞きたいのはそういうことではなかった。
「魔王様。メルルは本当に才能があるのです! メルル、魔王様にオマエの実力をお見せしなさい」
「はい、お祖父様」
アルスが自分の事を孫馬鹿と疑っていると気付いたメフィレは、メルルにその実力を見せるように指示を出すと彼女はシャルーに近づいていく。
そして、床でハティの隣で座っているシャルーの元まで来るとしゃがみ込み、その頭にそっと手を伸ばす。
イビルキャットは主人や気を許した者以外には、触れられるのを嫌うプライドの高い魔獣であるため、迂闊に触ろうとするとその鉄をも切り裂く爪で、腕をズタズタにされてしまうだろう。
だが、シャルーはメルルに頭を撫でる事を許すと、そのまま顎の下を撫でるのも許しゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶ。
「なっ なにー! あのイビルキャットを一瞬の内に手懐けただと~!!?」
アルスはその光景に驚くが――
「あっ でも、シャルーはフィリアにも会ったその日に懐いていたな」
思い出したら、人間のフィリアにも即落ちしていたことを思い出す。
「でっ では、メルルよ。隣の魔狼も手懐けて見せなさい!」
「はい、お祖父様」
魔狼はイビルキャットより更にプライドが高く、主人や気を許した者以外に触れられるのを嫌う。そのため迂闊に触ろうとするとその鉄を噛み砕く牙で、腕を噛みちぎられてしまうだろう。
ハティは、メルルに頭を撫でるのを許すと嬉しそうに尻尾を振っており、
「わんちゃん、お手」
「わん」
それに加えて”お手”までしている。
「なっ なにー! あの魔狼を一瞬の内に手懐けただと~!!? と、思ったけど、ハティもフィリアに会ったその日に懐いていたな」
アルスが再び思いだして、そう突っ込むとルイスが驚きの表情を浮かべて、彼に話し掛けてくる。
「アルス様、あの子の才能は本物かも知れません。ハティは、今まで私が”お手”をさせようとしても、お手しませんでしたから!」
(いや、それは君がハティに舐められているだけでは?)
ハティが、ルイスの言うことを聞かずに蝶々を追いかけ、カブトムシに夢中になっている姿を思い出して、アルスはそのように推察するが彼女を傷つけないためにも黙っておくことにした。
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