23 元魔王様、大活躍する。※ただし、マッチポンプ…
魔王禁術魔法<ダーク・ヌーク>
アルスことデスヘルダークの前の魔王マン・サッタンが、編み出した魔法<ダーク・ヌークリア>を、意図的に威力を押さえて作った魔法である。
彼は<ダーク・ヌークリア>を使用して、人間の町を1つ焼き払いその後に「我は死の王なり、世界の破壊者なり」と人間達に宣言する。
その魔法の威力に人間達は戦慄して、魔王マン・サッタンを脅威の存在だと認識する。
彼の存在が強大で有りすぎたために、デスヘルダークの名と存在は霞むことになる。
だが、魔王マン・サッタンが<ダーク・ヌークリア>を使用したのはその一回だけであり、アルスこと<地獄魔道士>アルイゼスという厨二臭い肩書で前魔王に仕えていた彼は、その理由を尋ねたことがある。
その時に、前魔王からはこのような答えが返ってきた。
「この魔法の威力は、あまりにも一方的な… そう、虐殺だ。我ら魔族にも通さなければならない仁義やルールはある。故に、この魔法は二度と使わん」
前魔王のその言葉に感嘆の念を感じ、ますます敬愛するアルス。
そして、魔王マン・サッタンはそんな彼を可愛がり全ての魔法を教える。
その威力を目の当たりにしていたアルスも、この魔法を使わないでおこうと誓うのであった。
アルスが茂みに突っ込みその衝撃で気を失って、このような過去の夢を見ていると
「アルス様! 起きてくださーーい!!」
そのルイスの声とビンタにより、まどろみの中から現実に引き戻される。
「痛い!? 何っ!? 何!? 遂に言葉の暴力から、体への暴力!?」
アルスが両頬の痛みで目を覚まして、ルイスの膝枕から飛び起きると彼女がそのような強引な起こし方をした理由が視界に入る。
視界に入った目の前の光景は、なんと一面火の海となっており、大火事とも呼べる森林火災であった。
「どうやら、アルス様の使用した魔法の高熱で、周りの木が発火したみたいです!」
「おぅ… 」
アルスは、また自分が張り切り過ぎてやらかしたことに、ついこのような間の抜けた声を漏らしてしまう。
魔王禁術魔法<ダーク・ヌーク>が放つ高熱を伴った爆風は、周囲の木々を薙ぎ倒したばかりか発火させて、大規模森林火災を引き起こしており、このままでは大災害になってしまうだろう。
「アルス様、どうしますか!?」
「どうするも何も消すしか無いだろう。最高位の水魔法で消化する!」
アルスは<ダーク・ヌーク>で、魔力を半分以上失っているが、最高位魔法なら後2回は使用することが出来る。
(時間がない… 二重詠唱でいく!)
アルスは両手を肩の位置まであげて、左右に広げると左右の手のひらにそれぞれ魔力を溜めて、最高位の水魔法を詠唱し始める。
「地獄の濁流<タイダルウェイブ>!!」
まずは右手の魔法を発動させると、掌の前に出現した巨大な魔法陣から大量の水が溢れ出して、幅5メートル程の津波となり前方の火災を消化しながら進んでいく。
左右の魔法で、幅10メートルの火災を消化することに成功するが、まだまだ消化はこれからである。
「アルス様、高位魔法を連発していますが、魔力は大丈夫なのですか?」
「いや、今の魔法で魔力は尽きた」
「どうするんですか? 魔力が回復する前に、森が全焼してしまいますよ!」
「大丈夫だ。これがあるからな」
アルスは地面に置いて結界を張って守っていた鞄から、薬瓶を取り出すと心配するルイスにそれを見せる。
「それは?」
「魔力回復薬だよ。今の俺は人間だから、これを飲むことで瞬時に魔力を回復させる事ができるんだ」
魔族の魔力を回復させる手段は、時間を掛けるしかないが、人間には薬というお手軽な手段があり、この回復方法の差が人間と魔族のパワーバランスを保っている一因である。
アルスが勇者パーティに敗れたのも、魔法を使用する度に減っていく彼と違って、勇者達は薬の所持数分だけ、傷も魔力も回復していた事もその理由の1つであった。
「何とか、鎮火できたな… うぇぷ…」
こうして、アルスはお腹がパンパンになるまで、魔力回復薬を飲み続けることによって、<タイダルウェイブ>を何度も放ち大森林火災を鎮火させる事に成功する。
「どうだ、ルイス。我の活躍は!? <さすまお!>となったか? うぇぷ…」
薬の飲みすぎで、服からお腹が出ているという解り易いお腹を擦りながら、アルスはルイスに感想を聞くが、どう見てもその姿に彼女がそのような感情を抱くわけがない。
「そうですね… 野営陣地を消滅させたり、大火災を消化したりと場面ごとを区切れば、素晴らしい活躍だったと思いますが… 野営陣地に放った魔法は明らかにオーバーキルで、消化もその魔法のせいで大火災になったのを、責任を取って消しただけなので…… 」
そう感想を述べたルイスの表情は、やはり尊敬しているモノではなかった。
休憩してから、野営陣地のあった場所に一応オークが残っていないか確かめに向かうが、そこに残っていたモノは崩壊した石造りの建物、溶けてガラス化した地面と魔法の威力がいかに強力であったか伝わってくる。
「魔王様の言う通り、この魔法は使うべきではなかった…」
忘れていたとはいえ、この魔法を使ってしまったことにアルスは後悔する。
村への帰り道、ルイスは先程の魔法の威力を見て疑問に感じたことを、アルスに訪ねてみる。
「アルス様… あの魔法があったのに勇者達に負けたのですか?」
「あの魔法は、使わなかったからな。だって、あんなモノを使えば魔王城が崩壊するじゃないか!」
「城外で使えばよかったじゃないですか?」
「!?」
アルスはその指摘に、一瞬「その手があったか!?」という表情になったが、すぐさまできるだけ威厳のある表情をして、このような尤もらしい事をルイスに語る。
「そっ それに… あれは、詠唱時間が長すぎて、実戦では使い物にならないからな!」
「確かにそうですね」
(外で待ち伏せていて、勇者達が遠くにいる時から詠唱すればよかったのでは?)
そのような考えが頭をよぎったルイスであったが、先程も素直に辛辣な意見を言って、凹ませてしまった隣を歩く繊細な心(豆腐メンタル)の持ち主である、元魔王様を傷つけてしまうと考え、これ以上は突っ込まないことにした。
フードを被ったルイスの大人の対応のおかげで、アルスはようやく少しは彼女に対して、威厳を保てたと満足する。
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