22  魔王禁術魔法




「あそこが、オークの野営陣地か」


 クノチカの村から半日行った北の森の中に、オークの野営陣地がありその200メートル手前の巨木の先にルイスと立ち、その野営陣地を観察していた。


 巨木の根本では、ハティとシャルーが尻尾を振って仲良く待っている。


「アルス様、どう攻めますか?」


「我がここから野営陣地に魔法で攻撃する。風向き次第では、オークに発見されるかもしれないから、ルイスはハティと我の護衛をしてくれ。魔法着弾後、すぐに野営陣地に向かい残敵を掃討する」


 オークとは豚や猪のような姿をした亜人であるため、その嗅覚は鋭く風向きが変われば、この距離でも見つかるであろう。


「わかりました」

「まあ、奴らが全て野営陣地に居れば、殲滅できるだろう」


「以前、森で使用した<インフェルノ>ですか?」


「いや、昨日夢の中で思い出した魔法を使おうと思う。魔王にのみ受け継がれる禁術魔法<ダーク・ヌーク>だ」


「どんな魔法なんですか?」


「前魔王様が、“かくゆう”何とかと説明していたけど、よくわからなかった。ただ、すごく眩しくて、凄い威力なんだ」


「子供みたいな表現ですね…」


 アルスの小学校低学年のような説明に、ルイスは思わずツッコミを入れてしまう。


「仕方ないだろう。聞いたことのない言葉だったんだから… まあ、見ていろ。凄い魔法だから! 今度こそルイスちゃん、我のこと流石魔王様、略して<さすまお>って、思うから!」


 ルイスはフードを脱いで、戦闘態勢に入ると小生意気スイッチも入って、このような事を言ってくる。


「あの… もしかして、ですけど… アルス様は、私にイイところを見せて、私に異性としての好意を抱かせようとしていますか? すみません。例え凄いところを見せられても、私が魔王様にそんな感情を抱くことは99%ないんですから」


 その少しツリ目気味の目をジト目にして、そう語るルイスのその淡々とした口調が冗談に聞こえないため、更にアルスの心にダメージを与える。


「誰が、親友の娘に手を出すか! キミに我に対して畏敬と尊敬の念を抱かせたいだけだ! 今のような言葉のナイフで、我の心を傷つけてくるような真似をさせないためだ!!」


「はあ… そう… ですか…。 では、木の下で護衛に入ります…」


 ルイスは一瞬少し表情が曇るが、一礼すると左右の手に剣を握り、木の下に降りるために軽く前に跳躍して落下していく。


「やれやれ…。まあ、恋愛に興味のある年頃だから、仕方がないか」


 アルスは親友の思春期の娘を温かい目で見守る。


「この魔法を使うのも久しぶりだな。この体でも耐えきれると思うが、ルイスにこれ以上横柄な態度を取られるのも、心が傷つく… やるしか無い!!」


 アルスは魔王禁呪魔法<ダーク・ヌーク>の詠唱を始めると雷属性に似ているが更に複雑な魔法陣が、オークの野営陣地の上空に展開される


(相変わらずどんどん魔力が失われていくな… 我の魔力を持ってしても、一回が限度だな)


 3分ぐらい詠唱していると魔法陣の下に、まるで小さな太陽のような眩い光を放つ球が、球体状の魔法陣の中に守られる形で出現する。


(よし、詠唱終了だ。ルイスに注意を促しておくか)


 アルスはこれから魔法を撃ち込むことを、木の下にいるルイスに知らせ魔法着弾後の爆風や光に備えるように促す。


「ルイス! これから、魔法を放つから爆風と光に備えるように!」

「魔王様、了解です」


 人見知りなので、声が大きな声を出せないルイスは、彼女なりに大きな声で返事をしたが、木の上のアルスには足元から何とか聞こえる小さな声であった。


(今度発声練習をさせるか…。いや、駄目だ… そんなことをさせれば、今よりもっと嫌われてしまう…。暫くは、今のままでいいだろう)


 アルスは心の中ですら日和ると、気持ちを改め魔法を発動させる。


「確か、最後の詠唱は… 輝け、闇の太陽。全てを灼き尽くすまで! <ダーク・ヌーク>!!」


 少し厨二臭い最後の詠唱を唱えたアルスは、ルイスを下で待機させておいて良かったと思いながら、<ダーク・ヌーク>を発動させる。


 何故なら、この厨二詠唱を彼女に聞かれていたら、あの切れ目気味のジト目で<厨二乙>と冷めた感じで、言われてしまうと考えたからだ。


 アルスがそのような事を考えている間に、発動した<ダーク・ヌーク>こと光の球は重力に従い地面に落下していく。


 ここに来てオーク達も、その小さな太陽のような球に気付くが、それが何か解らなかった為に、その正体不明の輝きが落下するのを見つめる事しか出来なかった。


 球体状の魔法陣が、地面から5メートル程の地点で消滅すると光の球は輝きを増大させつつ、野球のボールぐらいの大きさから、見る見るうちに1メートルの大きさまで広がると超高熱を伴った爆風ときのこ雲を発生させる。


 爆風に飲み込まれたオーク達は、超高熱で焼き尽くされ焼豚を通り越して、消滅させていく。

 それに伴い激しい爆風は200メートル離れているアルスやルイス達も襲う。


「凄い爆風!!」


 近くの大きな木の陰に隠れて、爆風を凌ぐルイスの足にはハティとシャルーが吹き飛ばされないように、必死にしがみついているが爆風と輝きで目を開けていられない。


「あ~れ~」


 木の上に居たアルスは、爆風をもろに受けて木の上から吹き飛ばされると、そのまま地上に落下して、でんぐり返しで地面を転がり、茂みに突っ込んでようやく停止する。


「きゅ~~」


 そして、目を回してそのまま茂みの中に、上半身を突っ込んだまま倒れている。


「アルス様は!?」

「にゃ!?」

「わん!?」


「ハティ、アルス様を探して!」

「わん!」


 爆風が止んだ後に、木の上の元魔王が居ないことに気付いたルイスは、アルスの捜索を始める。


「わんわん!!」


 ハティは地面に鼻を近づけアルスの捜索を始めると、5分後に100メートル先の茂みに突き刺さっている元魔王を発見する。


「アルス様、今お助けしますから!」


 ルイスは彼の両足を力一杯引っ張って、茂みから引き抜く。


 こうして、アルスはまたもやルイスに格好良いところを見せることが出来ずに、魔物討伐を終えてしまう。


 えっ? ルイスの評価? たぶん下がったと思いますよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る