21  第二回魔族少女と行く亜人退治





 クノチカの村行きの定期馬車に乗り込んで揺られること5時間、中継地であるユケイチウの町に到着するが、辺りはすっかり暮れだしていた。


 そのためアルスはここで一泊するため宿屋に向かうが、そこで受けた依頼が何故残っていたのか知ることになる。


「一部屋一泊1万イェンになります」


 本日の宿代一部屋1人で1万イェン

 ここまでの定期馬車台が2千イェン


 明日の定期馬車台が2千イェン

 明日の宿代1万イェン


 そこに食費を足せば、往復で約3万イェン

 2人なら、6万 推奨人数6人なら、約18万イェン


 報酬の30万イェンから、18万イェンを引いて12万を6人で分ければ報酬は2万、経費をできるだけ削っても3~4万イェンになる。


 命がけで戦って、報酬4万イェンの依頼など誰も受けたがらないであろう。


(なるほど… 依頼を受ける時は経費も考えねばならないのか… 魔王時代は、こういう事務的な事は部下に任せていたからな~)


 初心者冒険者らしく一つ一つ学ぶアルスであった。


 シャルーが横で丸まって眠るベッドの中で、アルスはふとこのような事を考える。


(そう言えば、我… 転生前の事を色々忘れている気がする… 転生魔法やその他の強力な魔法… 後は魔王時代におこなっていたことも一部忘れている)


 忘れていたという事自体を忘れている記憶もある。

 忘れているというより、欠落しているといった感じの記憶もある。


(転生魔法の後遺症なのであろうか…?)


 アルスは眠るまで必死に過去の記憶を辿るが、馬車での移動で疲れていたのかそのまま眠ってしまう。


 アルスは気づけば光の中を漂っていた。


(ここは… そうだ、転生前に長い刻を過ごしたいたあの光の空間だ… 我はここに長くいすぎたので、魔王に返り咲くのを辞めようと思っていたのだ…)


 きっと、眠る前に過去の事を思い出していたから、夢で見ているに違いないと推測していると、彼に― 厳密に言えば、記憶の中の彼に声が掛けられる。


「魔王ヘルデスダーク。私は女神  、この世界の女神です」

「誰がヘルデスダークだよ! デスヘルダークだ!」


 記憶が正確に呼び覚まされていないため、女神の名前はあやふやになってしまっており、記憶も飛んでしまうが、次の会話は初めて思い出したモノであった。


「アナタには、再び魔王になって貰います」


「誰がまた魔王するって言ったよ! それに200年経っているなら、もう魔王デスヘルダークなんて、誰も覚えてないぞ」


 女神は意図的になのか、アルスの言葉を聞いていないのか、解らないが彼の言葉を無視して自分の話を続ける。


「アナタの元にいたカークラースを覚えていますか?」

「カークラースが、どうした?」


「今そのカークラースの息子が、文字通り闇で暗躍して― 」


 アルスはそこで夢から覚めてしまう。


 何故なら、側で眠っていたシャルーが彼の胸の上で眠っており、そのため息苦しくなって目が覚めてしまったからだ。


「シャルー…」


 アルスは自分の胸の上で、すやすやと気持ちよさそうなシャルーを横に下ろすと


「あれ? 我、今とても大事な夢を見ていた気がする… まあ、思い出せないという事は、どうでも良い事だったのだろう。さあ、寝よう、寝よう」


 再び眠りにつくことにする。


 彼は再び眠りにつくが、夢の続きは当然見ることができず、彼にとって大変重大な記憶を思い出す機会を失ってしまったが、その代わりに強力な魔法を一つ思い出す事ができていた。


 次の日の朝、朝食を済ませるとクノチカの村の定期馬車に乗り、その日の夕方に目的地である村に到着する。


「討伐は、明日にしよう」


 暗い中で戦っても危険なので、予定通り村の宿屋で一晩泊まることにする。


 翌日の朝、朝食を食べ終わったアルスは、この村の冒険者組合に向かう。


 一人で組合に赴くことになったのは、見知りを発動させたルイスが宿で待つと言い張ったので、それならシャルーとハティも宿に残そうと考えたからで、相変わらずルイスに甘い元魔王であった。


 組合は村役場と併設された施設で、そこの初老の受付に依頼受領書を見せると依頼の場所の説明を受ける。


「オークの群れは、ここから半日行った北の森の中に、野営陣地を設置しています」


 受付は村の周囲が描かれた地図に、野営陣地の場所を書き込むとアルスにそれを手渡す時に一先ず安心といった表情でこのような事を言ってくる。


「これまでのオークの襲撃により、村を覆う結界にかなりガタが来ていて、あと2~3回の襲撃で破壊されていたでしょう。依頼を引き受けてくれて、本当に助かりました」


 そして、その後に言いにくそうに尋ねてくる。


「あの… もちろん”おひとり”では… 無いですよね?」


 受付としては、当然の質問である。


 何故ならば、彼の前には若くしかも頼りない青年が一人で立っており、どう見てもオークを倒せそうにないからで、彼が失敗すれば前述の通り結界が破られ、最悪村を放棄せねばならないからである。


 アルスもそれを感じ取り、すぐさま受付を安心させる言葉と証を見せることにした。


「安心してください。僕は”あの”魔王デスヘルダークを討伐した勇者パーティーの一員レイチェル=クライトンの子孫アルス=クライトンですから!」


 アルスは自分なりの最高のキメ顔で、自分の家の紋章のペンダントを見せる。


「なんと!! あの魔王デス…ヘ…ゴニョゴニョを討伐した魔法使いレイチェル=クライトン様の子孫でしたか!!」


「……」


 自分の元の名前を誤魔化されたことに、少し引掛ったがアルスは少し大袈裟な感じで、安心させる言葉を続けて話す。


「それに宿には、仲間である歴戦の猛者達(人見知り1人とペット2匹)が、待機しているので、必ずオークを退治して見せます!」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「感謝の言葉は、討伐完了後まで取っておいてください」


 アルスは最後まで格好良く決めると組合を後にする。



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