20  新拠点入手(予定)






 メフィレの屋敷―


 夕食を済ませた後、アルスはメフィレに今回訪問した理由であるお金の工面を頼むことにする。


「メフィレ、実は頼みたいことがあるのだが…」


「魔王様、全てわかっております。新生魔王軍の拠点が必要なのでございますな? おまかせください! 魔王様に相応しい荘厳かつ堅牢な城を、明日より造らせます」


「いや、城ではなくて…」

「わかりました、宮殿ですな?」


 メフィレの”魔王に相応しい威厳のある拠点を提供したい!”という気持ちは嬉しいが、今のアルスには分不相応であるため、こちらから欲しいと考えている物件を説明する。


「俺達のような駆け出し冒険者が、そのような豪華な拠点に住んでいたら、余計な気を引く事になってしまう。そこで、取り敢えずは冒険者が数人集って暮らせるような家が欲しいんだ」


「なるほど、豪華すぎない複数人で暮らすことができる、会館のような施設ということですね?」


「そう、それ!」


 会社を発展させた2代目社長、気の回る男メスレがアルスの要求を的確に汲み取り言葉にする。


「父さん、私達が初めて建てたあの屋敷が良いんじゃないかな?」

「おお、そうだな。あれをリフォームすればいいな」


 それは、敷地内にある150年前にメフィレ一家が建てた最初の屋敷で、クランの会館とするには丁度いい大きさと敷地面積であった。


「お金は追い追い返すから、10年単位くらいで…」

「いえ、お金など結構です。今の我らがあるのは、魔王様のお陰なのですから」


「依頼の報奨で、少しずつ返すから…」


 こうして、新たな拠点を手に入れることに成功したアルスは、久しぶりに気分良く眠りつく事ができた。


 次の日―


 新拠点改装が済むまで、部屋で“ぼーっ”としているのも、何なので冒険者組合で依頼を受けて、少しでも資金とすることにした。


「とはいえ、この町の冒険者組合の依頼だと、地元と同じで報酬の低いモノしかないだろうな…。よし、ここは王都の冒険者組合で、一攫千金を狙うか!」


 アルスが意気揚々と語ると、ルイスが水を指すようなことを言ってくる。


「アルス様。お言葉ですが、ここから王都までは、数日かかりますが?」


「フフフ… ルイスよ。我を誰だと思っている? 元魔王だぞ、転送魔法くらい習得している!」


 彼女にドヤ顔で、そう答える魔王。


 転送魔法は、大量の魔力を消費する最高位魔法で、この世界でも数名しか使用できる者はおらず、一度行った場所しか飛べない。


「では、我の側に」


 アルスはルイスとハティ、シャルーを転送魔法の範囲に呼び寄せると、周囲を見回して誰も見ていないことを確認すると転送魔法を唱えて、王都近くの森に飛ぶことにする。


 周囲を見渡したのは、このような最高位魔法を勇者PTの魔法使いの子孫とはいえ、若いアルスが使用するのは、色々と問題になるからであり、近くの森に飛んだのも人に見られたくないからである。


「よし、一応言っておくが、王都では問題を起こさないように」


「大丈夫です、そんな大それた事できるコミュ力ありませんから。人が多いのは苦手なので、それに私はここで待ちますから…」


 王都は今迄の比にならないほど人々が多いため、人見知りの彼女には行きたくない場所であり、当然嫌がり行き渋ってしまう。


 彼女の実力なら、ここに置いていっても大丈夫であろうが万が一の事があった場合、親友に合わせる顔がない。


「いや、駄目だ。お兄さん、君をこんな所に一人置いていくのは心配だから、一緒に連れて行くよ!」


「ハティが一緒だから、大丈夫です!」


「ハティは君を放置して、蝶々追いかけて夢中になる可能性があるから、大丈夫じゃないよ!」


「そんな事はありません! ねぇ、ハティ!?」


「わんわん(かぶとむし~)」

「にゃーにゃー(かぶとむし~)」


 幼い2匹は側の木に止まっている虫を、尻尾を振りながら興味津々に見ている。


「ハティーーーー!!」


 ルイスがまたもや使命を忘れて、別の事に気を取られている相棒に失望と叱責を込めて、その名前を呼ぶとハティは叱られているとは思っていないようで、嬉しそうに尻尾を振りながら大好きな御主人様の元にやってくる。


 ルイスは覚悟を決めるとフードを目深に被り、アルスの少し後ろを足取りが重い感じで歩いて行く。


 王都は今まで立ち寄ったどの町よりも、人が多く大通りも人で溢れているため、ルイスはアルスの後ろにピタッとつくと、子供のように彼の服を掴み不安そうな表情で付いてくる。


 そんな彼女を見たアルスは、ようやくルイスが自分を頼るようになったと思って、嬉しく思い元魔王として頼れるところを見せようと決意する。


 アルスは冒険者組合に到達すると、壁に張っている依頼書に目を通して行き、ある依頼書に目が留まってよく見ることにした。


 <依頼場所:クノチカの村 内容:オークの群れを殲滅(約20体) 報酬:30万イェン>

 <推奨ランクC>


「殲滅すればいいのか。これなら、前回のような事になっても大丈夫だな。よし、これにしよう!」


 依頼書を手にすると受付のいるカウンターに向かう。


「この依頼を受けたいのですが…」

「では、受領処理をおこないますので、冒険者証明証を提示してください」


「おや? アナタの冒険者ランクはEなので、数人による依頼遂行をお勧めします。なお、今回の任務によって、依頼遂行者が被害を受けても自己責任なので、依頼者と当組合は何ら責任を負わないのでご了承ください」


 冒険者にはランクがあり、依頼をこなすことによって上がっていくのだが、依頼によってはこのランクが高くないと受けられないものもある。


 今回アルスが受けた依頼は、ランクに制限がないため受領することができた。


 受付の事務的な説明を受けたアルスは、依頼の受領書を受けとると冒険者組合の入り口で待機していたルイスとペット2匹と合流して、クノチカの村行きの定期馬車に乗り込む。



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