18 クイカソナの町への道
前回のあらすじ
親友の娘であるルイスに、親戚のお兄さん(伯父さん)みたいな態度を取ってしまうアルスであった。
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ルイスの実力なら大丈夫であると思われるが、親友の娘を1人で危険な森で野宿させる訳にもいかず、とはいえ人見知りの彼女が知らない人との旅を拒むので、アルスは次のような決断をメスレに伝える。
「 ―というわけで、我々は2人だけで定期馬車を乗り継いで、クイカソナの町に向かうことにするから、先に町で待っていてくれないか?」
「わかりました。では、これを旅費としてお使いください」
アルスから事情を聞いたメスレは、懐から不測の事態に備えて用意していた30万イェン(日本円にして30万)の入った袋を、彼に手渡してくれる。
「しかし、両親に聞いていた通り、魔王様は部下にお優しい方ですね。父が忠誠を貫き通している理由が解りました」
「部下は我にとって、仲間や家族みたいなものだからな」
元魔王はさらりと魔王らしくない発言をするが、ルイスもメスレも不信どころか信頼に満ちた目で見ている。
「魔王様。まずは、ここから定期馬車でコトスイシカの街に向かてください。そこに我社の支店があるので、このような時のために押さえておいた特急馬車をお使いください。この<特別旅客手形>を見せれば、乗客できるように手配しておきます」
メスレは説明を終えるとアルスに<特別旅客手形>を手渡す。
(事前に、色々な状況に対応できるように用意しているとは、流石は大会社の経営者だな。こやつが200年前にいれば、我は勇者に負けず転生もしなくてすんだかもしれんな…)
アルスはお金と手形を受け取りながら、そのような事を考えてしまう。
「では、魔王様。クイカソナの町でお待ちしております」
一礼を済ませるとメスレは、馬車に乗り込み帰路につく。
「では、ルイス、シャルー。我らも行くか」
「はい、アルス様。いくよ、ハティ」
「わん!」
「にゃー」
こうして、2人と2匹はクイカソナの町に向けて旅に出る。
<暫く旅に出ます、探さないでください アルス >
心配しないように両親に置き手紙を残すとまずは、イカナの町に向かい定期馬車に飛び乗り、半日かけてコトスイシカの街に向かう。
「僕も長旅するのは、王都に向かった時依頼なんだ」
「そうなんですか… 」
「……」
馬車の中でアルスは、ルイスに話しかけるが人見知りの彼女からは、短い言葉しか返してこないので、すぐに会話が途切れてしまう。
ほぼ沈黙のままコトスイシカの街に到着すると、外は日が暮れだしていた。
夜も馬車は出るのか解らないが、とりあえずメスレの指示通りに街外れにある支店に向かうことにする。
支店の入り口に大きな看板が設置されていたので、迷うこと無く見つけることができ、店内に入ると受付にメスレに貰った<特別旅客手形>を見せると、先程まで「こんな時間に来ても、仕方ないですよ」というような態度だった案内係が、掌を返して丁寧な対応をしてくる。
「夜間は道が暗いため明日の出発になります。社長からご用意するように申し付けられて、手配したお宿にお連れいたします」
アルスとルイスは受付に連れられて、街の中央にある豪華な宿屋に連れて行かれ、そこから宿屋の案内係に部屋まで案内される。
案内された部屋は、豪華な部屋であったが枕が2つのキングサイズのベッドが設置されており、それを見た二人はそこで言葉を失う。
アルスが、恐る恐る振り返り後ろに控えているルイスを見ると、案の定彼女はゴミを見るような目で彼を見ている。
「違うから! 我は頼んでないから!」
どうやら、メスレがルイスに甘い対応をしているアルスを見て、二人が深い仲だと勘違いして余計な気を回したようである。
アルスは、すぐにもう一つ部屋を用意するように案内係に頼むが、他の部屋は既に満室だと言われて断られてしまう。
「大丈夫です… 私が我慢して、天井のシミを数えればいいだけですから…。ですが、明日から、アルス様の事を心の中で<ゲス魔王>と罵りますが、それぐらいは許容してください… 」
そう言ったルイスのフードから覗く目は、絶望と軽蔑の混ざった目であった。
「やめて! お兄さんを、そんな目で見ないで!」
アルスは少女のその目に耐えきれずに、思わず叫んでしまう。
「冗談です。私はソファーで眠るので」
彼女は部屋に入ると、背負っていた大きめの鞄を床に置きソファーに座る。
「ルイスに、そんな真似はさせられない。それなら、俺がソファーで眠るよ」
「駄目です! 私こそアルス様にそのような事は、させられません!」
彼は親友の娘にそんな事をさせたくないので、そのような提案をすると、ルイスは仕える者として、すぐにその提案を拒否してくる。
2人はしばらく自分がソファーで眠ると言い合うが、いつまでも平行線を辿りそうなので、ルイスからこのような提案を受ける。
「では… 2人でベッドを使用しましょう」
「それは…」
「私はアルス様が、何もしてこないと信じています。それとも、変な事するつもりなんですか?」
「親友の娘に、そんな事をするわけがないだろう!」
ルイスは、目線を逸したまま肩に掛かる長い銀色の髪を触りながら、恥ずかしそうに尋ねてくるので、アルスはすぐに否定する。
2人はこの後クイカソナの町に到着するまでの宿で、相部屋で夜を過ごすことになるが、アルスは宣言どおり<鋼の意志>で一切彼女に手を出さなかった。
次の日―
朝食を食べた後に、支店に向かうと店の前にはメスレが乗っていたモノと、同型の馬車とそれを引く馬型の魔物<ヴァルプニル>の姿があった。
2人と2匹は、促されるままにそれに乗り込むと猛スピードで走り出す。
窓から見える風景は、昨日乗った定期場所より明らかに早く進行方向とは逆に流れていく。
何より乗客が自分達だけなので、伸び伸び過ごすことができ、シャルーも鞄の外に出して上げることができる。
「まおうしゃま、すごくはやいにゃー!」
シャルーは嬉しそうに尻尾を振りながら、外の風景を見ており、ハティは向かいの席に座るルイスの足元で丸まって眠っている。
一同は4日間掛けて、クイカソナの町に到着する。
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